最強魔術師とリス令嬢〜君の全てを手に入れるまで〜

平川

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第七章    あなたと信じる心

121.宝玉の在り処

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 菫色の瞳は大公から
 暗い銀髪はマリアンヌから

 顔は大公に似ている。だがふんわりとした優しい作りはきっとマリアンヌからだろう。

「オーガリオ様。わたくし達降りてもよろしいですか?」
『ああ。大地の娘よ。もう一つの楔はここにある。此方の方が禍々しい。心せよ』
「禍々しい..........?」

 ミリアーナは先程のオーガリオの羽根を豊満な胸の谷間に挟み込み、マリアンヌの身体をごと抱き寄せ、再び巨大な身体から風を使い滑りながら飛び降りた。

「ちょっ!ミア!!」

 ダヤンが慌てて地を掛け、咄嗟に空中で受け止める。

 が、

「!!!!」

「.......ダヤン様。判りますか?」

「..................................う、嘘だ。.................なん................」
「それは.......大公様しか解りません。」

 ミリアーナとダヤンの間にいる女性。
 ダヤンの実母。
 マリアンヌの身体。
 脈もなく、血も巡ってはいなかった。
 だが、毒殺されてから13年近く年月が経った今でも、美しい姿。まるで寝ているようだ。

 地面に降り立ち、母の身体を抱きながらダヤンはガクリと膝を折り、ただ、驚愕する。

「は.................何が.................。起こっているんだ。.................ミア。これは俺の........母..?」

 ダヤンは弱々しくミリアーナを見る。
 ミリアーナはダヤンの頭を両手で抱き締めた。

「確かめましょう、ダヤン様。大公様がお義母様に何をしたのか。何がしたかったのか。世界の循環に針を刺し、留めてしまった程の想いを。わたくしの役目はその針を引き抜き正常に戻す事なのです。《大地の申し子》として」
「ミア」

 ダヤンは頭が追い付かない。思考が止まる。だが、

「ダヤン様、一緒に。わたくしの唯一。わたくしを護る最強の魔術師、最強の盾。貴方の全てをわたくしに下さいませ。過去も未来も心も身体も。わたくしと共に」

 ダヤンはミリアーナの自身を抱き締める細い柔らかな腕を掴む。
『聖女』と呼ばれ翻弄されてきた過去と現在。強い力。大地の申し子。だが、それに反して彼女からはか弱さを感じる。

 ダヤンは忘れかけていた一つの想いを思い出しぐっと噛み締めた。

「.................分かった。全てが今日解るんだな。なら、逃げない。君と共に行くと決めてる。どんな結果になろうとも。護るよミア。共に最後の瞬間まで」
「はい。ダヤン様!わたくしももう離したりしません。繋いでいて、ダヤン様。手を離さないで」

 レジンを始め、ネリオスやソイリア、カーミランやモーリシャス。団の警備が走りよって来る。そして、フラつきながら歩みを寄せた大公が苦悶の表情でそれを見る。

「ああ.................アン。マリアンヌ。ダメだ......ああ..........身体が.......」

 大公はよろりと近づいてマリアンヌの身体を抱き寄せ自身で包み込んだ。

「..........大公様。貴方が施した術。強力な何かが世界の循環に影響を与えました。貴方は.......マリアンヌ様を......この世に繋ぎ留めたのですね」

「.................」

「ち.......父上。どうやって.......そんな術など有りはしない。あり得ない。『聖女』でも無い、か........ぎ........り」

(いや、待て。何処かで...........。俺は何処かで知っていた?何を?..........『聖女』の存在を?書物以外で........)

「ダヤン!」

 そこに走り込んできたレジンが呼び掛けた。
 ダヤンはレジンの姿を見ながら思い馳せる。

「レ、レジ..........ン。.................あ!レジン!そうか!」
「え?何だ?」

 キョトリとするレジン。

「レジンと話した事があったんだ!小さい頃。王都の図書館で!」
「え?」
「初めてレジンと会った時。あの時.......
 王家で管理していた「宝玉」の事を。そうだ」
「「宝玉」?ああ、古い時代の。確かあれは.........」
「盗難にあったと言っていたんだ。そうだろ?」
「ああ。そうだ。ある日忽然とそれだけが失くなっていたらしい。消えたのか盗られたのか分からない。それくらい何にも他に異常が無くて........え?」
「あれは.........『聖女』の残した「宝玉」だと言われていた。.........そうだな?レジン」
「.........ダヤン?ああ、そうだけど....」
「父上......。マクロサーバスの屋敷には聖女に関する書籍が沢山あった。俺が解読の術で読んだ古代書もその内の一つだった。書物には一貫して『聖女』は癒し、いや、全ての治療が出来たとあったんだ。貴方はまさか。盗んだのか。王宮から。『聖女』に関わる宝玉を。何をしたんだ!どうやって.........母を......?」

「.................」

「一つ目の楔はマリアンヌ様の身体を残す為に掛けられた禁忌の術。これは何を犠牲にされたんですの?普通では魂の離れた身体など維持出来ないでしょう?それにどうやって魔術を維持しているのですか?魔術師の術は7日が限界なのですよね?禁忌の術を7日ごとに?いえ、楔は二つに分けられたとオーガリオ様は仰ってましたわ。つまりもう一つが常に働いていると言う事ですわね」

 ミリアーナはダヤンの手を握りながら続けた。

「オーガリオ様は此処に二つ目の楔が有ると仰ってます。この土地にあるのですね?」
「........ミア。皆で探すか?恐らく玉のような形なんだろう」


「探さなくても良いよ。私が持っている。ふふ」

 皆が一斉に声の方へ向く。
 そこには悠々と歩いて来るユリオの姿があった。そしてミリアーナの姿を口に薄笑いを浮かべながら舐めるような眼差しで見て来る。
 髪は焦茶色。瞳は.........黄色く濁ったブルー。顔色は真っ白だ。不健康な生活を送っていたのか肉が付いて腹が出ていた。


「やあぁ、お久しぶりだね、ミリアーナ嬢。いや、今は『聖女』様かな?ふふふ。美しい.......薄紫の髪に白い透き通る肌。絵物語の精霊のようだ。その白い柔らかそうな胸の谷間に挟まれたいね。ひひっ。妖精の様に可愛いリスのような動きをしていた少女がこれほどまでに容姿を変えて成長するとは。とっとと手に入れておけば良かったよ」
「ちっ!下世話な。私の妻になる人だ。貴方なんかに渡す訳無い。」

 ダヤンは眉間に皺を寄せスッとミリアーナの前に出る。

「ふふふ。いぃーや。私の物になるよ。私はマクロサーバスを継ぐ正統な後継者だ。手に入らないモノなど何も無いのだよ。財も女もな。いや、その魂さえも、だ。ねぇ、父上?」
「.................」


「ぽーぽーくるっぽ」
「.................オーガリオ様。そうですか」
「ミア?」
「ユリオ様が持っておられるようです。もう一つの楔を。ユリオ様。貴方は何をお持ちなのですか?それをわたくしに渡して下さいませ。それは世界の循環を留める楔。決してそのままには出来ません」
「ふふふ。見せてあげても良いよ?勿論ただでは無い。判るだろう?『聖女』。私の物になれ。その白い美しい肌を晒して私に懇願しろ。私のモノを咥え込め。ご奉仕するんだ。ふふふっははははは!」

「汚い言葉をミアに聞かせるな下衆!今すぐ捻り潰してやる。いや、微塵に細切れにしてやる。その後奪えば良い」

 ダヤンは右手を前に出す。

「ダヤン様。お待ちになって。何だか変です」

 ミリアーナはさっきから可笑しな歪みを感じていた。
 海岸の崖の上で感じたあの歪みに似た、いや、同じモノがキシキシと音を立てている。

 どこから.................いや、一箇所では.................無い?
 ぐっと目を凝らし耳をそば立てる。

 次第にミリアーナの目に見えて来るそれは魔力の色。魔力の質。ミリアーナは魔力を視覚で捉えた。

 キシキシキリキリと締め上げるような音は大公の胸。そしてユリオの胸の下に繋がっている。大公が淡い黄色そしてユリオは燃えるような赤黒い色の魔力。それが鎖のように大公の魔力を締め上げていた。


「ユリオ様、貴方は何をされたのですか!大公様の魔力が貴方に繋がっている。いえ、違う。貴方の身体の中にあるそれが大公様に繋がっているんだわ」


 ミリアーナはギッとユリオを見据えて問うた。

「貴方。宝玉を.................飲み込んだのですね?」
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