最強魔術師とリス令嬢〜君の全てを手に入れるまで〜

平川

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第八章    あなたと選択

127.忘れられない日〜大人へ

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 大公はマリアンヌとネリオスを連れ転移の術でアギルに先に帰る。マリアンヌを医者に見せる為と本日の後始末と、そして明日の婚姻式について采配する為に。

 開けた場所に降り立っていたオーガリオは楔が消えた事でまた宙界へと戻ると言う。

『ではな、大地の娘達。私も早く帰ってクリスオーラを迎えに行かねば』
「オーガリオ様の番様はやっぱり大きい方なんですか?」
『クリスオーラは人型だ。大きくはない』
「な!何ですって!.................い、いえ。もうなんでも有りな気がします」
『ふふ。宙界では私の形など何とでもなるからな。大地の娘達よ。どうか息災で。君達の悲しみは大地の悲しみ。憂いを晴らす為大地は籌策していた。我々も楽しみにしているよ。君達の未来を」
「..........でも、大地の管理者様は......」
『その内成る可くして成る。心配する必要はない。ああ、楽しみだ。ふふふ』

 オーガリオはそう言うと大きな翼を広げ、足で地を蹴り上げる。スッと空に舞い上がり翼を2、3回はためかせた。

『さらばだ。大地の娘達。またな』
「はい、オーガリオ様もお元気で!ありがとうございました!ラン様やクリスオーラ様にもお礼申し上げます!さようなら!」
『ああ』

 そうして宙界の管理者オーガリオは帰って行った。


 *


「ミア」

 ダヤンがゆっくりと歩み寄る。

「ダヤン様...........帰りましょう。アギルへ。お式........無茶苦茶にしてしまいました。ごめんなさい」

 シュンとするミリアーナ。

「君の所為だと思ってるの?違うよ。半分はユリオで半分は父上の所為だ。俺は........俺の所為でもあるな。家族と距離を取っていた。知ろうとしなかった。そのツケが来たんだ。これはマクロサーバス家の者の罪だよ。年単位で後始末をしないとな」

 ダヤンは一旦言葉を切り、眉を下げミリアーナを見る。

「ミア。君を巻き込んでしまった。俺の存在が。盾に成るべき俺が君を危険に晒した。これからも.......でも、もう離せない。離したくない。ミア、俺と夫婦になってくれる?」

 ミリアーナはダヤンの顔を見上げキョトンとする。

「.........ダヤン様酷いですわ。わたくしの心を疑うのですか?わたくしだって......魔術師の貴方でも公爵家の跡取りでもない、ただのダヤン様が好きなんです。貴方の優しさも誠実さも真っ直ぐな所や.....少しイヤラシイ所も、ふふ。全部好き。これから来る困難な事にだって負けません。お互い様ですわ。だから2人で。2人なら」

 ミリアーナはダヤンの頬を柔らかく撫でる。

「それだけで幸せなんです」

 そう言ってニコリと微笑んだ。

「.....うん。俺も」

 ダヤンもふわりと嬉しげに笑う。



「ダヤン~~鳥さん帰ったか?行こうぜー」

 レジンはオーガリオが飛び去った夕暮の空を眺め歩きながら声を掛けてくる。

「ああ。行こう。待たせたな。レジン。お前まだ話して無い事無いだろうな?もう、今話しとけよ。全部受け入れてやる」
「ふーん?じゃあ、ミリアーナと2人で話したいんだけど良いか?」
「調子乗るなよ?」

 レジンの頬をぎゅむッと掴むダヤン。

「........良いですよ。帰ったら慌ただしいかと思いますし。わたくしも..........レジン様の話が聞きたいです」

 グッと詰まるダヤン。口をパクパクするが、諦めた様にふうっと息を吐き、やがてレジンの頬を離す。

「........変な事するなよ?燃やすぞ」

 ダヤンはそのまま踵を返し大木の有る丘の方へ1人歩いて行ってしまった。

「........へえ」

 その様子を見ながらレジンはふふっと笑う。

「ダヤン様、変わりましたか?」
「そうだな。何やかんやあったけど飲み込めたのか、落ち着いたな」
「明日は婚姻式と戴冠式で爵位授与ですか。わたくし達も、大人になるんですね。レジン様」
「.........ああ。3人して同じ歳なんてな。成長具合が判って面白いな。自慢じゃ無いが俺達年齢以上の困難を乗り越えて来てると思うぞ?」
「ふふっ。ええ。その通りですね。レジン様。ありがとうございました。貴方が居なければ今のダヤン様もわたくしも居なかったでしょう。《花の聖女》、シーラも自らの罪の贖罪に挑む勇気が持てたのです。貴方があの時シーラを救ったのですよ。彼女は........いえ。良かったです。少しずつですがこの世界からいずれ魔力は無くなって行くでしょう。魔力過多症の方達も」
「そうか。済んだんだな」
「実はまだ終わってませんの」
「え?まだ?後、何が残ってるんだ?」
「大地の管理者様に会わねばなりません。ですが.................」
「管理者?」
「ですが、まだいらっしゃらないそうなのです」
「え?」
「シャルの魂を大地に還す為には大地と妖精界と宙界の3界の管理者様に『許し』の証を受け取って頂かねばなりません。シーラはどうしてもシャルを助けたいと《妖精王》様にお願いしました。シャルは長い年月をシーラに会う為だけに費やし、漸く見つけましたが大地の強い力が不幸を呼ばないようにと魂を分け彼女を護ったのです。彼は既に魂の磨耗によって存在出来なくなる手前でした。妖精を犠牲にして命を存えた罪の為、魂も消滅するはずでしたが、シーラは彼の魂の存続を願い今、二つ証を受け取って頂いてるのです」
「シーラはシャルが好きなのか?」
「.................恋や異性としてと言う意味で言うなら違うかと。彼はとてもシーラを大事に想っていて下さいました。とても優しくて。純粋で。真っ直ぐで。胸が痛くなるほど。ですが愛されるその想いに心は追いついてはいません。彼女は今.......あまり話すと怒られてしまいます。ふふっ」


「ミリアーナ.........俺は君が好きだった。けどさ、ダヤンの君を想う気持ちに敵わないんだよな。そのシャルって奴にしろ無償の愛の度合いが半端ない。俺は自分の立場が解ってる。憧れるけど、出来るか解らない。いや、何もかも捨て切れ無い。君を........君の心を手に入れるには半端じゃダメなんだ」
「レジン様」
「でも、ありがとう。出会ってくれて。君に出会えたからここまで来れた。魔力過多症の事も。俺はシーラを恨んで無いよ。逆に幸せにしてやりたいと思ったくらいだ。俺の双子の妹は魔力過多症で儚くなったけどきっと許してくれるよ。またいつかあいつに会えたらちゃんと説明しとくから」
「.................」

「ミリアーナ。これで終わりにする。悪かったな、付き合わせて。ありがとうな。じゃ、行こうか」
「.................はい。レジン様。わたくしこそありがとうございました。あ、そうだレジン様」
「ん?」
「手を繋ぎましょう」
「え!」
「あの大木まで。きっと明日からはわたくし達大人になりますから。最後の思い出に。そうだ、ダヤン様とも繋いで下さいませ!」
「い、いや、ミリアーナ?それは.........えっと」

 ミリアーナは問答無用でレジンの左手を握る。するとダヤンが鬼の形相で転移して来る。

「レジン!お前何手なんか繋いで「はい、ダヤン様も繋ぎましょう?」るん.................何で?」
「ふふっだって何だか楽しいじゃ有りませんか。ふふふっ」
「ミア........」
「.....ほれ、ダヤン。繋ぐ?」

 右手を差し出す。レジンは受け入れたようだ。

「馬鹿。出来るか!」
「8歳の時は繋いでたぜ?ふふっ」
「あれは転移の術の為だっただろ。まだ不安定だったし........ちゃんと握ってないとどっかに飛ばされるから。て、よく覚えてるな」
「ほら、早く。ダヤン様。もう、しようがないですね。わたくしと繋ぎますか?」
「........なんか悔しいんだけど」

 ダヤンはそう言いながらミリアーナと手を繋いだ。

「あの大木まで。ハサルの花を見ながら行きましょう。きっと忘れられない日になります。そうだ。レジン様の誕生日パーティーでハサルの花束を差し上げましたね」

 3人は並んでゆっくりと歩いて行く。

「あれな。花で全然顔見えなくてちょっと笑ったよ」
「ミアは小さかったから」
「割と最近まで小さかったんですけどね」
「可愛いかったよ。ふわふわしてて。ビックリすると固まって。婚約式の時もプルプルしてたな」
「ユリオにちょっかい出されてたからな。全くあの頃から節操が無い奴だった」

 右手がレジンで左手がダヤン。ミリアーナは2人の暖かい手に包まれて涙が出そうになるのを喉の奥で堪えていた。

「何かさ、後1ピース。埋まって無い気がするんだわ。何だろな。色々有り過ぎて判らないだけかな?」
「俺は容量とっくに超えてるから。でも、そうだな。明日全て揃うんじゃ無いか?ただの感だけど」
「そうだと良いですね。あ、そうだ!わたくし今日18歳になりましたよ?お2人より少しお姉さんです。ふふ」
「そうだ。アギルに置いて来たな、プレゼント。後で渡すから。ごめんな?」
「俺は.........止めとく。その代わり」

 レジンは繋いだミリアーナの手を持ち上げ甲にキスをした。

「!!!こら!」慌てるダヤン。

「誕生日おめでとう。ミリアーナ。これからもよろしくな?」

 微笑むレジン。

「はい。レジン様。こちらこそ」

 ニコリと笑うミリアーナ。

「くっそ!先越された。今日はもう酒飲もうかな!」
「ぶっ!ふはははは。ダヤンが可愛い過ぎる」
「ふふふふふっ。もう、ダヤン様。ふふふ」


 こうして大木のある丘まで3人は手を繋いで笑いながら歩いた。掛け替えの無い出会いに感謝をしながら。


 子供の時代に別れを告げた今日と言う日を。
 辛い過去世の思い出のある丘を愛しい記憶に替えて。

 脳裏に焼き付かせるように赤い赤いハサルの花が一斉に風でふわりふわりと優しく揺れていた。
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