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第八章 あなたと選択
131.戴冠式へ
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ダヤンのこだわり抜いた装飾とウエディングドレスを身につけたミリアーナ。ダヤン、そして大公は戴冠式に出席する。
勿論大公がねじ込んだ。だが、『聖女』が訪れると知り王宮の者は歓声を挙げる。祝福を受けられるのだ。それだけで戴冠式は成功したも同然だった。
9の刻
バドワージウ国 玉座の間に各国の主要貴族、王家の関係者が入場する。最重要国家貴賓である。規模もさる事ながら警備も厳重である。
魔術国と言われているバドワージウだが今の国王は魔力が少ない。王太子も。この王家で最も魔力を擁しているのは王妃とアリア王女だけになる。
王太子妃はそれなりに魔力の内包量はあったが魔術はあまり得意では無かった。言い換えれば皆「凡庸」。魔術師の防御の魔術とレジンの組織に守られて来たのだ。
組織の者達はレジンに何も言わなかった。
下克上を促す貴族達にも。
選択を間違えたとしても主に付き従うつもりであった。
レジンも何も言わなかった。王位継承権を自ら捨て去った。それが自分の道だとそう思ったから。だが、《花の聖女》の罪の贖罪が行われて地上の魔力は大地へ返される。魔力は近い将来この世界から無くなる。状況が変わったのだ。つまり、人の力だけが支配するようになる。そうなった時にこの大国を導く者が必要なのでは無いか。それは今なのか、次世なのか。...........間に合うのか........。
それは自分がやるべき事なのか。
レジンの葛藤は答えが出ない。未来を知らないのだから。
貴賓の入場が終わり、最後に王家の者が入場する。国王を始め王妃は王座と側座。侍女や侍従に連れられた双子の王子王女。そしてレジン。皆が各々決められた王家の席に着く。レジンは末席だ。王位継承権を放棄している為である。
だが、その後すぐ、後方の正面の大扉が再び開かれた。ワッと歓声が沸き起こる。開かれた扉の前にはマクロサーバス家当主の菫色の瞳を持つ美丈夫の大公。
そしてその後ろには、同じ菫色の瞳を持つ美麗な暗い銀髪の婚礼の衣装を身につけた長身の青年。
そして.................
ルビーを散りばめた赤いハサルを花を冠にし、菫色の煌めく宝石を着け、純白の衣装を身に纏った光のように眩しい女性が、前を見据えていた。
大公を先頭にミリアーナとダヤンは玉座の前まで進み歩く。立席した貴賓達はその美しさに口を開け見入る。ミリアーナの魔力にくらりと頭が惚ける魔術師もいた。溢れ出る清涼で清浄な瑞々しい暖かい魔力。魔力の少ない者でも判るくらいに異様。『聖女』であるとすぐ様判るほどだった。
玉座に座した王に大公は膝を立て跪く。ダヤンは腹に手を当て頭を下げる。ミリアーナは頭は下げずにフワリとカーテンシーを軽くしてまた背を伸ばして前を向く。
つまり、ここへ来たのは『聖女』の立場で訪れたと言う事を誇示した態度だった。
「本日の戴冠の儀、誠におめでとうございます。兼ねてより魔力過多症の治療を行い多数の命を救われていらっしゃった『聖女』にして《大地の申し子》であられるミリアーナ様が、この国の新たな門出にお祝いをされたいと申されまして。後ほど祝福を頂けるとの事。折しも我が息子との婚姻式がこの後ございますので長いは出来ませんが。それでも宜しいですかな?」
「あ、ああ。勿論だ、大公。だが、婚姻式は昨日では無かったか?」
「ええ。本来であれば。ですが、会場に『聖女』様を狙う怪物が現れましてな。退治はしたのですが式が行えなかったので。本日やり直しをさせて頂く事になりました」
玉座の間がザワリと驚愕に騒めいた。
「怪物..........」
王はゴクリと息を飲む。
「赤黒いぬめった肌をした腐臭を撒き散らす3メートル程の異形でありました。剣も肉を通さず、魔術だけの攻撃で対応致しましたが致命傷には至らず。最後は息子が魔力を全て術に変え押さえ込み、『聖女』様のお力で捕縛出来た次第です」
更に会場が騒めく。筆頭公爵家マクロサーバス家の次男ダヤンは国内外にその名を馳せる魔術師だ。パンプリンクの神殿にて聖女の治療の手伝いをして来たと言う。魔力の量は膨大らしい。その魔術師でさえ簡単に抑えられなかったと言う怪物。
「これからもこのような脅威が付き従うでしょうが、なに。息子も魔術師ですから、ご心配には及びません。その為にだけ鍛錬を重ねて来ましたからな。長々とお時間取らせて申し訳ございません。では参りましょう、『聖女』様」
諸々取っ払うとこんな説明になるんだな、とダヤンは大公を半眼で見る。
ついでに各国に『聖女』を手に入れるリスクを告げ牽制までしているのだ。
ミリアーナは特別に急遽用意された王家の対面に設置された椅子に案内される。ダヤンがミリアーナの後ろに立ち、大公は元々の決まった席へ案内された。勿論最前列である。
遠く向かいに座るレジン。ミリアーナに眩しいものを見た時の目を向ける。
ダヤンはミリアーナの護衛も兼ねている為背後に立ちながらレジンを見る。末席に座る姿のなんと似合わない事か。
だが、その姿を目に入れたはずのダヤンは何故かふっと笑うのだった。
勿論大公がねじ込んだ。だが、『聖女』が訪れると知り王宮の者は歓声を挙げる。祝福を受けられるのだ。それだけで戴冠式は成功したも同然だった。
9の刻
バドワージウ国 玉座の間に各国の主要貴族、王家の関係者が入場する。最重要国家貴賓である。規模もさる事ながら警備も厳重である。
魔術国と言われているバドワージウだが今の国王は魔力が少ない。王太子も。この王家で最も魔力を擁しているのは王妃とアリア王女だけになる。
王太子妃はそれなりに魔力の内包量はあったが魔術はあまり得意では無かった。言い換えれば皆「凡庸」。魔術師の防御の魔術とレジンの組織に守られて来たのだ。
組織の者達はレジンに何も言わなかった。
下克上を促す貴族達にも。
選択を間違えたとしても主に付き従うつもりであった。
レジンも何も言わなかった。王位継承権を自ら捨て去った。それが自分の道だとそう思ったから。だが、《花の聖女》の罪の贖罪が行われて地上の魔力は大地へ返される。魔力は近い将来この世界から無くなる。状況が変わったのだ。つまり、人の力だけが支配するようになる。そうなった時にこの大国を導く者が必要なのでは無いか。それは今なのか、次世なのか。...........間に合うのか........。
それは自分がやるべき事なのか。
レジンの葛藤は答えが出ない。未来を知らないのだから。
貴賓の入場が終わり、最後に王家の者が入場する。国王を始め王妃は王座と側座。侍女や侍従に連れられた双子の王子王女。そしてレジン。皆が各々決められた王家の席に着く。レジンは末席だ。王位継承権を放棄している為である。
だが、その後すぐ、後方の正面の大扉が再び開かれた。ワッと歓声が沸き起こる。開かれた扉の前にはマクロサーバス家当主の菫色の瞳を持つ美丈夫の大公。
そしてその後ろには、同じ菫色の瞳を持つ美麗な暗い銀髪の婚礼の衣装を身につけた長身の青年。
そして.................
ルビーを散りばめた赤いハサルを花を冠にし、菫色の煌めく宝石を着け、純白の衣装を身に纏った光のように眩しい女性が、前を見据えていた。
大公を先頭にミリアーナとダヤンは玉座の前まで進み歩く。立席した貴賓達はその美しさに口を開け見入る。ミリアーナの魔力にくらりと頭が惚ける魔術師もいた。溢れ出る清涼で清浄な瑞々しい暖かい魔力。魔力の少ない者でも判るくらいに異様。『聖女』であるとすぐ様判るほどだった。
玉座に座した王に大公は膝を立て跪く。ダヤンは腹に手を当て頭を下げる。ミリアーナは頭は下げずにフワリとカーテンシーを軽くしてまた背を伸ばして前を向く。
つまり、ここへ来たのは『聖女』の立場で訪れたと言う事を誇示した態度だった。
「本日の戴冠の儀、誠におめでとうございます。兼ねてより魔力過多症の治療を行い多数の命を救われていらっしゃった『聖女』にして《大地の申し子》であられるミリアーナ様が、この国の新たな門出にお祝いをされたいと申されまして。後ほど祝福を頂けるとの事。折しも我が息子との婚姻式がこの後ございますので長いは出来ませんが。それでも宜しいですかな?」
「あ、ああ。勿論だ、大公。だが、婚姻式は昨日では無かったか?」
「ええ。本来であれば。ですが、会場に『聖女』様を狙う怪物が現れましてな。退治はしたのですが式が行えなかったので。本日やり直しをさせて頂く事になりました」
玉座の間がザワリと驚愕に騒めいた。
「怪物..........」
王はゴクリと息を飲む。
「赤黒いぬめった肌をした腐臭を撒き散らす3メートル程の異形でありました。剣も肉を通さず、魔術だけの攻撃で対応致しましたが致命傷には至らず。最後は息子が魔力を全て術に変え押さえ込み、『聖女』様のお力で捕縛出来た次第です」
更に会場が騒めく。筆頭公爵家マクロサーバス家の次男ダヤンは国内外にその名を馳せる魔術師だ。パンプリンクの神殿にて聖女の治療の手伝いをして来たと言う。魔力の量は膨大らしい。その魔術師でさえ簡単に抑えられなかったと言う怪物。
「これからもこのような脅威が付き従うでしょうが、なに。息子も魔術師ですから、ご心配には及びません。その為にだけ鍛錬を重ねて来ましたからな。長々とお時間取らせて申し訳ございません。では参りましょう、『聖女』様」
諸々取っ払うとこんな説明になるんだな、とダヤンは大公を半眼で見る。
ついでに各国に『聖女』を手に入れるリスクを告げ牽制までしているのだ。
ミリアーナは特別に急遽用意された王家の対面に設置された椅子に案内される。ダヤンがミリアーナの後ろに立ち、大公は元々の決まった席へ案内された。勿論最前列である。
遠く向かいに座るレジン。ミリアーナに眩しいものを見た時の目を向ける。
ダヤンはミリアーナの護衛も兼ねている為背後に立ちながらレジンを見る。末席に座る姿のなんと似合わない事か。
だが、その姿を目に入れたはずのダヤンは何故かふっと笑うのだった。
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