最強魔術師とリス令嬢〜君の全てを手に入れるまで〜

平川

文字の大きさ
96 / 110
第八章    あなたと選択

131.戴冠式へ

しおりを挟む
 ダヤンのこだわり抜いた装飾とウエディングドレスを身につけたミリアーナ。ダヤン、そして大公は戴冠式に出席する。
 勿論大公がねじ込んだ。だが、『聖女』が訪れると知り王宮の者は歓声を挙げる。祝福を受けられるのだ。それだけで戴冠式は成功したも同然だった。

 9の刻

 バドワージウ国 玉座の間に各国の主要貴族、王家の関係者が入場する。最重要国家貴賓である。規模もさる事ながら警備も厳重である。

 魔術国と言われているバドワージウだが今の国王は魔力が少ない。王太子も。この王家で最も魔力を擁しているのは王妃とアリア王女だけになる。

 王太子妃はそれなりに魔力の内包量はあったが魔術はあまり得意では無かった。言い換えれば皆「凡庸」。魔術師の防御の魔術とレジンの組織に守られて来たのだ。

 組織の者達はレジンに何も言わなかった。
 下克上を促す貴族達にも。
 選択を間違えたとしても主に付き従うつもりであった。

 レジンも何も言わなかった。王位継承権を自ら捨て去った。それが自分の道だとそう思ったから。だが、《花の聖女》の罪の贖罪が行われて地上の魔力は大地へ返される。魔力は近い将来この世界から無くなる。状況が変わったのだ。つまり、人の力だけが支配するようになる。そうなった時にこの大国を導く者が必要なのでは無いか。それは今なのか、次世なのか。...........間に合うのか........。
 それは自分がやるべき事なのか。

 レジンの葛藤は答えが出ない。未来を知らないのだから。



 貴賓の入場が終わり、最後に王家の者が入場する。国王を始め王妃は王座と側座。侍女や侍従に連れられた双子の王子王女。そしてレジン。皆が各々決められた王家の席に着く。レジンは末席だ。王位継承権を放棄している為である。

 だが、その後すぐ、後方の正面の大扉が再び開かれた。ワッと歓声が沸き起こる。開かれた扉の前にはマクロサーバス家当主の菫色の瞳を持つ美丈夫の大公。
 そしてその後ろには、同じ菫色の瞳を持つ美麗な暗い銀髪の婚礼の衣装を身につけた長身の青年。

 そして.................


 ルビーを散りばめた赤いハサルを花を冠にし、菫色の煌めく宝石を着け、純白の衣装を身に纏った光のように眩しい女性が、前を見据えていた。

 大公を先頭にミリアーナとダヤンは玉座の前まで進み歩く。立席した貴賓達はその美しさに口を開け見入る。ミリアーナの魔力にくらりと頭が惚ける魔術師もいた。溢れ出る清涼で清浄な瑞々しい暖かい魔力。魔力の少ない者でも判るくらいに異様。『聖女』であるとすぐ様判るほどだった。

 玉座に座した王に大公は膝を立て跪く。ダヤンは腹に手を当て頭を下げる。ミリアーナは頭は下げずにフワリとカーテンシーを軽くしてまた背を伸ばして前を向く。
 つまり、ここへ来たのは『聖女』の立場で訪れたと言う事を誇示した態度だった。

「本日の戴冠の儀、誠におめでとうございます。兼ねてより魔力過多症の治療を行い多数の命を救われていらっしゃった『聖女』にして《大地の申し子》であられるミリアーナ様が、この国の新たな門出にお祝いをされたいと申されまして。後ほど祝福を頂けるとの事。折しも我が息子との婚姻式がこの後ございますので長いは出来ませんが。それでも宜しいですかな?」
「あ、ああ。勿論だ、大公。だが、婚姻式は昨日では無かったか?」
「ええ。本来であれば。ですが、会場に『聖女』様を狙う怪物が現れましてな。退治はしたのですが式が行えなかったので。本日やり直しをさせて頂く事になりました」

 玉座の間がザワリと驚愕に騒めいた。

「怪物..........」
 王はゴクリと息を飲む。

「赤黒いぬめった肌をした腐臭を撒き散らす3メートル程の異形でありました。剣も肉を通さず、魔術だけの攻撃で対応致しましたが致命傷には至らず。最後は息子が魔力を全て術に変え押さえ込み、『聖女』様のお力で捕縛出来た次第です」

 更に会場が騒めく。筆頭公爵家マクロサーバス家の次男ダヤンは国内外にその名を馳せる魔術師だ。パンプリンクの神殿にて聖女の治療の手伝いをして来たと言う。魔力の量は膨大らしい。その魔術師でさえ簡単に抑えられなかったと言う怪物。

「これからもこのような脅威が付き従うでしょうが、なに。息子も魔術師ですから、ご心配には及びません。その為にだけ鍛錬を重ねて来ましたからな。長々とお時間取らせて申し訳ございません。では参りましょう、『聖女』様」

 諸々取っ払うとこんな説明になるんだな、とダヤンは大公を半眼で見る。
 ついでに各国に『聖女』を手に入れるリスクを告げ牽制までしているのだ。

 ミリアーナは特別に急遽用意された王家の対面に設置された椅子に案内される。ダヤンがミリアーナの後ろに立ち、大公は元々の決まった席へ案内された。勿論最前列である。

 遠く向かいに座るレジン。ミリアーナに眩しいものを見た時の目を向ける。
 ダヤンはミリアーナの護衛も兼ねている為背後に立ちながらレジンを見る。末席に座る姿のなんと似合わない事か。


 だが、その姿を目に入れたはずのダヤンは何故かふっと笑うのだった。




しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...