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第一章 「番」と「想い」
1.絡め獲るぞ!
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「アウィン!私今度こそ結婚する!」
「.................ああ?またか?」
ここは俺の執務室だ。俺は男爵家の後継ぎでアウィン・シータ・ウィングボルト。元々商会の会長だった祖父が爵位を買って得た地位だ。珍しい事ではない。今は商会の管理や領主経営を前当主から半分引き継いでいる。
「う、うう。!こ、今度は大丈夫!だって相手は再婚だし。おじ様だから、恋人と駆け落ちとか、旅に出るとか留学とか、衝動的な事はしないでしょ?だから大丈夫!」
「飽きもせず良く縁談が来るもんだ。もう、すでに5回くらい破談になってるよな?お前の結婚話」
「.................だって、父様がどっかから持ってくるのよ。父様って交友広いのね。あんまり外に出ないのに不思議なんだけど。まあ、過去お世話した人達なのかも知れないし」
「ふっ......交友ね」
「.........ア、アウィンは、レオーラに、その.........」
「ん?レオーラ?レオーラがなんて?」
「ん、ううん。何でもない。えっと.........もう、行くね。お仕事の邪魔してごめんなさい。ミートパイを届けに来たついでに顔を見に寄っただけだから。えっと。食べてね。.......じゃあ、さよならアウィン」
「サラ?」
サラはそう言い残して執務室から出て行った。
サラは隣の領地に住むハリサント子爵の次女だ。3歳離れた長女が居たのだが、教会のボランティアで何処かの旅人と恋仲になり、あっという間に燃え上がって駆け落ちしてしまった。
残されたのはサラと父親の子爵のみ。母親は流行病で5年に儚くなっている。
後を継ぐべき長女の代わりに1年前から婿を迎える為にお見合いしては婚約破棄されている。恋人と逃げたり、急に相手が留学したりと理由は様々だが、とうとう再婚のオヤジが相手とか。サラの周りでは不穏な噂が立ち始めている。もうソロソロ精神的に限界かも知れない。
「困ったもんだな」
サラは俺の幼馴染みだ。もう1人レオーラと言う同じ子爵令嬢とサラの姉と四人で小さい頃はよく遊んだ。
レオーラは金の髪に澄んだグリーンの瞳の美しい娘だ。ピンクの小さな唇、色も白くて物腰も柔らかく、男の目を引く。
サラは真っ直ぐの銀髪だが少し燻んだ色だ。瞳はオレンジ。大きくパッチリした二重クッキリのアーモンド型。可愛い顔をしている。だが、なんだか年齢よりも幼く見える。言葉遣いの所為か、身体が少し小さい所為か、目が大きい所為か。まあ、正直20歳になり焦ってはいるだろう。
因みに俺は彼女達より3歳年上。つまりサラの姉と同じ歳だ。
「さて。レイブン、居るか?」
「はい、失礼致します」
「また、頼むわ」
「承知致しました」
「これで決める」
「ふふふ。それはめでたい」
「そうだな.........追い詰めて..........当日にしようか」
「おやおや。お可哀想に」
「ふふ。それは仕方ない。これが性質なんでな」
「そうでございますね。抗えない」
「絡め獲るよ。全てな」
**********
1ヶ月後
アウィンの執務室
「今度は何だか順調かも」
「ふーん」
「.................今の所....何にも無くて。まあ、一度会っただけで大した事は判らないんだけど。何だかジロジロ見られて怖かったけど、口調は柔らかかったし大丈夫そう」
「嫌なのか?」
「え?」
「嫌そうに見えるぞ」
「..........嫌.....なのかな?ねえ、アウィン。政略結婚って上手く行くのかな?姉様みたいに好きな人と一緒になれたら........。なんてね、今更よね。ただ、不安なだけよ。よく知らない人と一緒に住むんだもの。ちょっと怖いだけ」
「........知ってる奴なら良いのか?」
「え?.........えっ」
「良く知らない奴と住むだけじゃ無いんだぞ。身体を合わせるんだ。お前出来るのか?」
「!」
「...........ああ。済まない。女の方が分かってるよな。政略結婚なんてどこにでも転がってる話だ。今更だな」
「.........そうね。仕方ないよね。........ふぅ。何だか疲れちゃった。諦めれば楽になれる。だから、もう良いの。ふふ。こうやってアウィンと会う事も無くなるね。寂しくなっちゃう」
「.................」
「ねえ、レオーラどうしてるかな?」
「レオーラ?ああ、最近は益々綺麗になってるな。化粧を覚えたみたいだ。この間会った時は真っ赤な唇で、ちょっとビックリした」
「レオーラと会ったの?そうなんだ。私には連絡返してくれないのにな」
「ふーん。喧嘩でもしたのか?」
「.................ううん。そんなんじゃ無いよ。ただ、大人になっただけ。後、私変な噂が有るから。近づきたく無いのかもね」
「ああ。あれか」
【男運のない灰色猫】
「だっけ?灰色は無いな」
「銀髪って言っても明るく無いから。遠目で見れば灰色よ。お婆さんみたいよね。アウィンは良いな。明るいプラチナブロンドで。瞳も明るい赤紫。不思議な色よね」
「爺さん譲りなんだ。まあ、容姿と中身が合って無いと良く言われるがな。俺の所為じゃ無い。サラ。お前の銀髪だって綺麗だよ。瞳だって珍しいオレンジだ。見てると元気になる。自分を卑下するな」
「アウィン...............貴方と.........出会えて良かったよ。.........アウィン、幸せになってね?優しいお嫁さん貰いなさいよ?ふふ。こんな軽口後7日で出来なくなるのね。寂しいわ」
「嫁さんか..........そうだな。ソロソロちゃんとしないとな」
「.................うん」
「式......行くから。それまで踏ん張れ。それを越えたら何とかなる。ちゃんと着飾れよ?サラ。笑え。お前は笑ってる方が何倍も可愛いぞ」
「っ.....うん」
「.................サラ」
「平気。大丈夫。なんでも無いわ。そうだ。今日はチェリーパイなの。上手く出来たよ?カスタードクリームが絶品!ふふ。最後だから味わって食べてね?.................ありがとうねアウィン。またお仕事の邪魔してごめんなさい。じゃあ......今度は......式で会いましょう」
「.........ああ。式で」
サラは力無く笑い扉を開けて出ていこうとしたが、一度立ち止まり、ノブに手を掛けてから呟いた。
「........レオーラなら、お似合いよね。アウィン頑張ってね」
「.................ああ?またか?」
ここは俺の執務室だ。俺は男爵家の後継ぎでアウィン・シータ・ウィングボルト。元々商会の会長だった祖父が爵位を買って得た地位だ。珍しい事ではない。今は商会の管理や領主経営を前当主から半分引き継いでいる。
「う、うう。!こ、今度は大丈夫!だって相手は再婚だし。おじ様だから、恋人と駆け落ちとか、旅に出るとか留学とか、衝動的な事はしないでしょ?だから大丈夫!」
「飽きもせず良く縁談が来るもんだ。もう、すでに5回くらい破談になってるよな?お前の結婚話」
「.................だって、父様がどっかから持ってくるのよ。父様って交友広いのね。あんまり外に出ないのに不思議なんだけど。まあ、過去お世話した人達なのかも知れないし」
「ふっ......交友ね」
「.........ア、アウィンは、レオーラに、その.........」
「ん?レオーラ?レオーラがなんて?」
「ん、ううん。何でもない。えっと.........もう、行くね。お仕事の邪魔してごめんなさい。ミートパイを届けに来たついでに顔を見に寄っただけだから。えっと。食べてね。.......じゃあ、さよならアウィン」
「サラ?」
サラはそう言い残して執務室から出て行った。
サラは隣の領地に住むハリサント子爵の次女だ。3歳離れた長女が居たのだが、教会のボランティアで何処かの旅人と恋仲になり、あっという間に燃え上がって駆け落ちしてしまった。
残されたのはサラと父親の子爵のみ。母親は流行病で5年に儚くなっている。
後を継ぐべき長女の代わりに1年前から婿を迎える為にお見合いしては婚約破棄されている。恋人と逃げたり、急に相手が留学したりと理由は様々だが、とうとう再婚のオヤジが相手とか。サラの周りでは不穏な噂が立ち始めている。もうソロソロ精神的に限界かも知れない。
「困ったもんだな」
サラは俺の幼馴染みだ。もう1人レオーラと言う同じ子爵令嬢とサラの姉と四人で小さい頃はよく遊んだ。
レオーラは金の髪に澄んだグリーンの瞳の美しい娘だ。ピンクの小さな唇、色も白くて物腰も柔らかく、男の目を引く。
サラは真っ直ぐの銀髪だが少し燻んだ色だ。瞳はオレンジ。大きくパッチリした二重クッキリのアーモンド型。可愛い顔をしている。だが、なんだか年齢よりも幼く見える。言葉遣いの所為か、身体が少し小さい所為か、目が大きい所為か。まあ、正直20歳になり焦ってはいるだろう。
因みに俺は彼女達より3歳年上。つまりサラの姉と同じ歳だ。
「さて。レイブン、居るか?」
「はい、失礼致します」
「また、頼むわ」
「承知致しました」
「これで決める」
「ふふふ。それはめでたい」
「そうだな.........追い詰めて..........当日にしようか」
「おやおや。お可哀想に」
「ふふ。それは仕方ない。これが性質なんでな」
「そうでございますね。抗えない」
「絡め獲るよ。全てな」
**********
1ヶ月後
アウィンの執務室
「今度は何だか順調かも」
「ふーん」
「.................今の所....何にも無くて。まあ、一度会っただけで大した事は判らないんだけど。何だかジロジロ見られて怖かったけど、口調は柔らかかったし大丈夫そう」
「嫌なのか?」
「え?」
「嫌そうに見えるぞ」
「..........嫌.....なのかな?ねえ、アウィン。政略結婚って上手く行くのかな?姉様みたいに好きな人と一緒になれたら........。なんてね、今更よね。ただ、不安なだけよ。よく知らない人と一緒に住むんだもの。ちょっと怖いだけ」
「........知ってる奴なら良いのか?」
「え?.........えっ」
「良く知らない奴と住むだけじゃ無いんだぞ。身体を合わせるんだ。お前出来るのか?」
「!」
「...........ああ。済まない。女の方が分かってるよな。政略結婚なんてどこにでも転がってる話だ。今更だな」
「.........そうね。仕方ないよね。........ふぅ。何だか疲れちゃった。諦めれば楽になれる。だから、もう良いの。ふふ。こうやってアウィンと会う事も無くなるね。寂しくなっちゃう」
「.................」
「ねえ、レオーラどうしてるかな?」
「レオーラ?ああ、最近は益々綺麗になってるな。化粧を覚えたみたいだ。この間会った時は真っ赤な唇で、ちょっとビックリした」
「レオーラと会ったの?そうなんだ。私には連絡返してくれないのにな」
「ふーん。喧嘩でもしたのか?」
「.................ううん。そんなんじゃ無いよ。ただ、大人になっただけ。後、私変な噂が有るから。近づきたく無いのかもね」
「ああ。あれか」
【男運のない灰色猫】
「だっけ?灰色は無いな」
「銀髪って言っても明るく無いから。遠目で見れば灰色よ。お婆さんみたいよね。アウィンは良いな。明るいプラチナブロンドで。瞳も明るい赤紫。不思議な色よね」
「爺さん譲りなんだ。まあ、容姿と中身が合って無いと良く言われるがな。俺の所為じゃ無い。サラ。お前の銀髪だって綺麗だよ。瞳だって珍しいオレンジだ。見てると元気になる。自分を卑下するな」
「アウィン...............貴方と.........出会えて良かったよ。.........アウィン、幸せになってね?優しいお嫁さん貰いなさいよ?ふふ。こんな軽口後7日で出来なくなるのね。寂しいわ」
「嫁さんか..........そうだな。ソロソロちゃんとしないとな」
「.................うん」
「式......行くから。それまで踏ん張れ。それを越えたら何とかなる。ちゃんと着飾れよ?サラ。笑え。お前は笑ってる方が何倍も可愛いぞ」
「っ.....うん」
「.................サラ」
「平気。大丈夫。なんでも無いわ。そうだ。今日はチェリーパイなの。上手く出来たよ?カスタードクリームが絶品!ふふ。最後だから味わって食べてね?.................ありがとうねアウィン。またお仕事の邪魔してごめんなさい。じゃあ......今度は......式で会いましょう」
「.........ああ。式で」
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