未完】風神アウィンの受難〜全属性神族の番になれる愛妻は女神らしい。いや、俺のだからな?〜

平川

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第一章 「番」と「想い」

3.名前を捨てろ!

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 サラはハンカチで顔を押さえ下を向いている。
 俺はサラの向かいに座り黙って足と腕を組んでサラをじっと見ていた。
 今日のサラはおそらく母が残したウエディングドレスを着ていた。所々燻んだ胸元のレースに胸がモヤッとする。装身具はイヤリングだけだった。これも母の形見だ。昔、宝物だと見せてくれた事がある。もう、サラを彩る綺麗な物は無い。いや、後一つ。丁寧に編み込んだ髪に白い花が刺されていた。サラが庭で育てている花。小さな花が沢山付いている。

「.................どこに、行くの?」

 サラがポツリと聞いてくる。

「やり直しだよ。言っただろ?」
「何をやり直すの?」
「もうすぐ着く。すぐに判る」
「アウィン.................どうして.......白い........」
「ほら、もう見えてきた」
「.................」

 潮の香りがフッとする。

「ここはラヌシェルの港町だ」
「え?え?嘘、早すぎるわ!こんな時間に着く程近くないわよね?」
「普通はな。だがこの馬車は特別製でな。俺が作らせた。ウィンドストーンを使ってる」
「ウィンドストーン?そんな物存在したの?御伽話だと思ってた.....」
「あるよ。一般には知られて無いだけでな。戦争の元になる可能性もあるから取り扱い注意だけど。馬車の速度を上げるくらいなら問題ないだろ」
「.................聞いて良い話だったの?」
「...ああ。良い。お前はもう........」

 その時、ガタンッと馬車の速度が落ち、次第にゆっくりとなり止まる。

 御者がコンコンッと扉をノックする。

「良いぞ。ステップを頼む」
「はい、ご用意致しております」
「ああ。ありがとう」

 御者が馬車の扉を開け放つ。

 俺は先に地に足を着けてからサラに手を差し出した。

「さあ、行くぞ」
「アウィン........」
「早くしろ。時間ギリギリだ」
「う、うん」

 素直なサラはサッと慌てて小さな手を差し出した。その手は、あかぎれて少しカサついていて貴族の子女の手じゃ無かった。
 俺は何も言わずぎゅっと握り、サラを引き寄せる。

「.........さあ、やり直そう。嫌と言ってももうダメだ。もう」


 そこには俺の執事兼補佐を務めているレイブンが礼をして待っていた。

「お待ちしておりました。旦那様。サラ様。ではご案内致します。こちらへどうぞ」

 見上げると先程の教会とは違う大理石の柱が美しい神殿が目の前に広がる。このラヌシェルは「水神」と「風神」信仰の発祥地だ。各神の巨像が神殿の左右に設置されていた。俺達は最奥を目指し、ただ歩いて行く。サラはビクビクキョロキョロしながら俺に手を引かれ早足で歩く。何か言いたげだが、俺が前だけ見て歩いているからか口をつぐんでいた。

 しばらく進むと大きな美しい装飾が施された扉にたどり着いた。
 レイブンがゆっくりとその扉を開けて行く。そこはこの神殿最奥、宣誓の間。神に祈りを捧げる美しい場所。天窓から降り注ぐ光で宣誓台が白く光る。

「あ、あの、アウィン......あの.....」

 俺は漸くサラに顔を向ける。サラは何だか今にも泣きそうな顔をして俺を見上げていた。大きなアーモンド型のオレンジの中に俺の顔が見える。

「サラ。お前の父ハリサント子爵は借金をしていてな。それが莫大な額に膨れあがった。理由は領地経営の失敗もあるが、お前の母親が亡くなってから実はギャンブルに手を出していたんだ。高額な掛金でカードやルーレットなんかして遊んでいたみたいで。借金が返せないと判るとまずはお前の姉を売る事にしたみたいだ。容姿は美しかったからな。だが、ある時相談されたんだよ。俺に逃してくれってな。あいつは気付いてしまったんだよ。父親の行いに」
「......嘘....父様が?ね、姉様を?」
「ああ。俺は金を渡してお前の姉を他国に逃してやったのさ。恋人共々な」
「ど、どうしてアウィンが?」
「まあ、交換条件は結んだ。それは気にするな」
「アウィン.........」
「そうしたら、次はお前だ。次々に結婚と偽って借金の返済に売り飛ばそうとしていた。子爵は家族より微々たる領地を残したかったのか。領地を全て売ればまだ働けば返していけるくらいの生活は出来ただろうに」


「父様は.........母様が好きで....母様だけが大事だったから。でも、家族として愛してくれていると思ってた。関心は確かに無かったかも知れないけど、でも.................私.................売られたのね?」
「.......ああ。そうだ」
「...........ふ、ふふ。最低ね。売られたらどうなるの?やっぱり娼館へ行かされるのかな?ふふ。無茶苦茶にされるわね。鎖に繋がれて」
「そうなりたくないだろ?」
「........どうしようもないわ。私では返せない額だろうし。姉様も居ない。どうにもならない」


 サラはフルフルと震え静かに涙を零した。
 俺は黙って宣誓台に置いてあったインク壺の蓋を開け、台の上に置き、もう一本のペン先で自らの指に傷を付け血を滴らせた。その赤をインクの中へ落とす。

「アウィン!血が!」
「お前の手も出せ。大丈夫、痛くないようにする」

 俺はサラの左手を掴み同じようにペン先を突き刺した。目をぎゅっと瞑るサラ。小さなあかぎれた指先から小さな赤が滲み出て来る。ペン先でそれを掬いインク壺に入れた。

「さあ、準備は出来た。今からハリサントの名は捨ててもらう。ここに名前を書け、サラ。宣誓証にサインをしろ」
「でも、アウィン!これ、なんの宣誓証なの?名前を捨てる?どう言う事なの?此処.................何処?」

「ここは俺が降りて来る地。そして名前を捨てるとは.......俺のモノになると言う事。サラ。名前を書け。言っただろう?何とかなるって。してやるよ。俺がお前の望む未来に」














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