【完結】美女と岩

平川

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 その日は俺に取って一生忘れられない夜になった。

 初めて好きな女と全身で肌を重ね絡み合わせる嬉しさと、美しい妻に俺を侵食させる背徳感を味わった。

 正直始めは上手くいかなかった。壊してしまいそうで彼女の中に押し込む事が出来なかったのだ。日を改めて徐々に慣らそう、今日は止めようと告げる。
 が、アンジュがそんな俺にまたがり自分で…苦しそうに顔を歪めながらもゆっくりと腰を降ろして飲み込んでいった。

「ん…あ…ぁ…んっ…あっ…中…いっぱい…」

 アンジュの口から漏れるその声を聞いて理性がブツッと弾け飛び、後は繋がったまま延々と愛し合った。優しくは出来なかった…

 朝起きて1番に思った事は

 やってしまった!!死んで無いか!?…だった。

 だがあれだけ攻め立てたのにも関わらず、アンジュは俺の身体の上で穏やかにスヤスヤと眠っていたのだ。

「あれ?意外に丈夫?…はぁ、良かった。いや、良くない!全く俺は何してんだよ」

 俺も初めてだがアンジュも初めてだ!酷い扱いをしてしまったんじゃ無いのか?5歳も歳上なのに全く大人げ無い…ああ~っ!嫌われてないかな…こうしちゃおれん!

 アンジュを起こさない様にゆっくり身体を傾けベッドに降ろす。
 寝てても可愛いな…まつ毛長いな…ふわふわだ…上に乗ってても全然苦しく無いくらい軽いし太ももなんか俺の腕より細い…全部愛しい。いつまででも見てられ…じゃなくて!急がねば!

 俺はアンジュに起こさないよう毛布を被せ直してガウンを羽織り、音を立てない様にそっと部屋を出た。


 ****

「ん…」

「アンジュ、起きたか?」

 3時間程してアンジュが目を覚ます。ベッドの脇に腰を降ろし彼女の柔らかい髪を撫でた。ぼんやりと目を開けたアンジュは俺の顔をジッと見つめ、フイにニコッと笑い掛ける。

「ダリ様…ふふ…」
「うん…おはようアンジュ。大丈夫か?その…痛みは…」
「少し…でも平気です。わたくし丈夫ですのよ?」
「そ、そうか、良かった…無体をしてすまなかった。止められ無くて…夢中になってしまって」
「だったら嬉しいです。わたくしもダリ様のとっても素晴らしい精…えっとその…せ、し、幸せでしたっ」
「? うん。俺も」

 お互いに照れながらへへッと笑い合う。

「今日はアンジュの為に朝食を作った。うちの家の習わしでな。結婚した次の日は夫が妻の食事を作るんだ」
「え…凄い!ダリ様の手料理ですか?嬉しいです!」
「大した物は作れないがサンドイッチとスープにサラダ。デザートは焼きプリンだ。これはちょっと自信作」
「ふふっ素敵。ダリ様…抱っこして?」
「ああ、俺の妻は甘えただな」
「だってダリ様のお胸気持ちいいのです。温かくてしっかりしてて…でも優しいの。昔から…大好きでした」
「アンジュは小さな頃から会うと抱っこをせがんでたな…」
「だって手を繋いでくれないから…抱っこはしてくれたのに…」

 拗ねてキュッと俺に抱き着くアンジュに、あの日俺に手を延ばしわんわん泣いていた赤ん坊の姿が重なる。

 本当は…手を差し伸べて小さな手を握ってみたかったんだ。でも何だか恥ずかしくて…あの当時の俺は少しツンとした子供だった。人よりも成長が早く、考える事も大人びた…要するに可愛くない奴だった。抱っこは、こう…小さい子をあやす感じだったので手を繋ぐより抵抗無く出来たのだ。

「今から挽回するから。いっぱい可愛がるよ」

 そう言ってアンジュを抱き上げながら昔から変わらない可愛い唇に熱い想いを込めて口付けをした。

 ****

 王都に居を移し更に2月後。アンジュのお披露目を兼ねて結婚披露パーティーの夜会を開く。未来の侯爵夫人だ。交流も必要だろう。まあ、社交界は煩わしいと言うなら別に構わない。うちは代々武に特化した家門だから政治に関与しなくても俺が居れば問題ない。新たに侍女や使用人を雇い、環境を整えていった。

 侯爵家のタウンハウスは単独の建物だ。敷地も狭くは無い。領地の屋敷よりは小振りだがホールもあり、小さな夜会くらいなら開く事が出来る。母が若い頃も良く小規模なパーティーを催していたとの事。

 俺も付き合いで何度か夜会には出席した事はあるが大概は壁の華だった。いや、岩だった。話しかけられるのはほぼ軍関係だった。子女は俺の目に入らない場所にササッと避けていた…悲しい想い出だ。
 だが今日は準主役だ。存在感出さないと!

 夜会は母主導の元、立食の良くあるスタイルで行われた。ホールへ続く扉の前で少し緊張しながら待つ。扉が侍従によって開かれたらホールの真ん中で挨拶をしてそのままダンス…このダンスもこの1月の間必死に練習して来た。基本ステップ等は習得しているが…身長差がネックだった。可笑しく無い様に優雅に見せる技を習得するのに2人で寝る前に練習する日々。まあ、それも実は楽しかったのだけれど。

「緊張してる?」
「ふふ…ええ。でも楽しみです。これからどこの夜会に行ってもわたくしと踊って下さいね?」
「…他のレディは俺とは踊ってくれないよ」
「じゃあ、わたくしも他の殿方とは踊りません。約束ね?」
「アンジュと踊りたがる男は山程いると思うけど…」
「だから離しちゃ駄目ふふ…」
「分かった。追い払うよ」
「ええ、……貴方程生命力の強い男性はこの国にはいないのだもの。意味は無いわ」
「え?」

 その時扉がゆっくりと開き始めた。ハッとしてホールに身体を向ける。だが、アンジュの呟きが気になってもう一度彼女を見下ろした。するとそれに気付いたアンジュがフイッと俺を見上げる。
 少しタレ目気味で優しげな大きなピンクの瞳。形の良い鼻。可愛い唇。結婚してからも美しさに益々拍車が掛かっていた。
 日を追うごとに肌艶も良く、少女から突然脱却し、男を蠱惑する女の色気が垣間見え、淡いオレンジの髪を緩く結い上げる事によって露出した首筋の透ける様な白さが眩しい。

「アンジュ…愛してる」
「わたくしも…ダリ様を愛しております」
「…そうか。永遠に頼むよ」
「ふふ…はい」

 一瞬過ぎった疑問が何だったのか解らないが、恐らく俺が変わらなければ大丈夫な様な気がした。

 ****

 軽く挨拶の後、結婚の報告をして妻のアンジュを紹介し、その後ダンスを踊った。岩の俺が小さな女性と踊る姿はさぞ滑稽だろう。だがそれも気にならない程アンジュとのダンスは楽しかった。どうしてもターンの度に彼女の身体がふわりと浮いてしまう。だが楽しそうに笑うその顔を見ると何とも言えない喜びが湧き上がった。ああ、愛しいなぁ…そう思わずにはいられなかった。
 ダンスが終わり互いに一礼をする。その瞬間ワッと周りから拍手と歓声が起こった。

 人が押し寄せ祝いの言葉を述べる一方でアンジュにダンスの申し込みをする男達が群がった。ブルーなどは目の色が変わっている。呼ばなきゃ良かったか…
 まあ、そうだよな…と思いつつ俺の結婚の披露宴で人の妻に色目を使うのはどうなんだ?と半分呆れ返る。するとササッと人混みが割れ出入り口から白い礼服に赤のマントに身を包んだ金髪の男が気品良く歩いて来た。


 嘘だろ?なんで?招待状なんか出してないぞ!


 俺は驚きながらもサッと腰を降ろし跪いた。アンジュも同じくドレスを摘みふわりと腰を落とす。

「やあ、リダリオス。お祝いに来たよ?つれないね~招待状もくれないなんて」
「私的なパーティーでしたので。皇室にはご挨拶に参ったのですが…」
「でも私は居なかっただろう?丁度休暇でラモルト地方に出向いていたんだ…良い所だったよ。さあ、顔を挙げてくれ」

 顔を挙げて下から目の前に居る男を見る。華美な装飾に彩られた高貴な佇まい。金の巻き毛、顔も整っている。青い瞳も美しい。

 この国に皇太子であり第1皇子殿下タナサージュが俺を見下ろしていた。

「わざわざご足労頂きありがとうございます皇太子殿下。若輩者ではございますがこの度長く婚約しておりましたゴード伯爵家の娘であるアリアンジュを妻に迎えました。どうぞお見知り置き下さい」
「へぇ、婚約者がいたんだね。さあ、奥様顔を挙げて?挨拶させてくれないか?」  

 ああ…不味いな…一瞬そう思うが対面しているこの状況で隠す事など出来はしない。

 殿下は…まだ未婚だ!

 アンジュがゆっくりと立ち上がる。それに合わせて俺も立ち上がった。アンジュが殿下に向かい顔を挙げる。一瞬殿下の肩が揺れ顎が上がった。

「初めてお目に掛かります。わたくしローザンテ侯爵子息リダリオス・バンス・ローザンテ様の妻でアリアンジュと申します。お見知り置きを」
「……う…美しい…」
「ありがとうございます。全てはリダリオス様のお陰でございます」
「え?リダリオスのお陰?なぜだ?」
「わたくし赤ん坊の時よりリダリオス様に恋をしておりましたの。ふふ…恋する乙女は美しくなると言いますでしょう?やっと成人しましたので漸く一緒になる事が出来ました」
「…アンジュ…」

 ちょっと殿下に対して砕けた物言いだけど…可愛いから良いか。

「赤ん坊?そんな馬鹿な話…それはつまり政略結婚では無いと言う事か?もし言わされているならば私が今直ぐ君を引き取ろう。勿論不利益は無い様に配慮する。アリアンジュ嬢、何も心配は要らない」

「は?」

 祝いの雰囲気がザワリ…と一瞬で不穏な空気に変わり、静寂が周りを包む。

「君を私の妻に迎えたい。そう言っているのだ」
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