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第一幕
21.経過観察:家族解禁
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「確かに普通では無いな.........。でも実際に君は切られたし、知っていながら医者にも見せなかったのは私だから。君は私を傷付ける権利が有る」
「要らないわよ、そんな権利!私はそんな異常性癖持ち合わせて無いの。やるなら.........自分でやれば?」
「.........分かった」
「ーーーっ」
彼はそう言うと右耳を片手で引っ張りながら持ち、左手にハサミを持ち替え、刃を耳に当て........
「やっ!ダメ!!!」
私は反射的にベッドから飛び降り彼の左手を捕まえる。
「.........アリエラ.........」
「はぁ.........馬鹿じゃ無いの?望んで無いって言ってるのよ!もう!.........もう.........そんな事しないでっ」
「アリエラでも.........償い切れない事をして来たんだ。何か見える形で返したい」
「それがこれ?ふざけないでよ!こんな事して許すとでも思ったの?嫌味たらしいだけよ!やめて頂戴。絶対しないで!!」
「.................分かった」
私はふぅっと息を吐いた。
「傷付いたけど、傷付いて欲しいなんて思った事はない。悔しくて悲しかったけど、貴方に同じようになって欲しい訳じゃ無いわ」
「.................アリエラ」
私は彼の手からハサミを取り上げてベッド横のサイドテーブルの引き出しに仕舞った。
「私、貴方から離れると身体が崩れちゃうんでしょ?これ、一生?」
「.................いや、第5段階を行えば離れても平気になる。........でも今は出来ない」
「なんで?」
「.........効果が.........薄いかも知れないから。それに、君も嫌がるだろうし」
「嫌がる事なの?何をするのよ?」
「.................今は言えない」
「何よそれ?でもしなくちゃいけないんでしょ?」
「しなくても儀式から2ヶ月くらいまでなら魔力が補ってくれる」
「へぇ.........じゃあ、良いわ。ねぇ、私父様や母様に会いたいわ。どこまで離れたらダメなの?」
「私が連れて行こう。使いを出すから。明日でも構わないか?」
「ええ。良いわ。本当の事ならね。魔術とやらで嘘を見せるつもりなら今すぐ走って逃げてやる」
「嘘じゃない。えっと.........あ、手紙なら有る。最近の物だ。ちょっと待ってて」
彼はそう言いながら隣の部屋へ入って行く。そう言えば隣は何の部屋かしら?
「持って来た。これだ。君の父君と母君の2人からなんだ。良い事が書いてある」
「良い事?」
「.........君には.........辛い事かも知れない」
「良い事が書いてあるのに私には辛い事?何よそれ.........」
渡された手紙を受け取る。宛名は伯爵宛。封筒には名は無かった。
中を開いて便箋を開けてみる。
「!」父の字だ。
筆圧にクセがある見覚えのある字。内容は男爵領の現在の状態と支援を受けている事業の業績。傾向と問題点などだ。これを見る限りは良好だと感じる。ちゃんとした数字が無いので何とも言えないが。最後は感謝の言葉で締められていた。日付は一月前。
4枚目は母の字だった。
私の身を案じる内容だった。涙がポロリと溢れる。母様.........会いたい!
だが、最後の三行に驚いて私は思わず「え"!!」と声が出ていた。
『もう直ぐ息子も5歳になります。毎日元気でやんちゃです。歳の離れた姉弟を早く合わせてあげたい。どうか一度アリエラと会わせて下さい』
「.................弟?私に弟が?嘘.........っ」
「君が嫁いで来てから割と直ぐに.........」
「................5歳.........17歳も離れてる」
「う、ん。まあ、仲が良くて、良い事だよ」
「..........そうね。仲は.........良かったけど....」
何だがヒュッと涙が引っ込んだわ。
私はフッと笑う。手紙からは悲壮な感じはまるで無く、幸せな家族像が見て取れた。
私が6年間この屋敷で何をされて来ていたかなんて彼らは知らないのだ。今更だが除け者だ。そんな中に.........帰れはしない。
「.........ねぇ、やっぱり暫く帰るの止めるわ。今会うには.....確かに辛いもの。色んなモノを壊しそう」
「そうか。分かった。君は.........優し過ぎるな」
「違うわ。後から後悔する事が怖いだけよ。失う事に慣れてしまっただけ。それが全部嘘だったとしても、ね」
「アリエラ.........済まない」
シュンとする夫を見ながら私は手紙を封筒の中に戻し、彼に差し出した。
「支援、続けてくれてたのね。ありがとう。父は経営があまり得意じゃなかったから。ところで、私がこなしてたあの書類も全部嘘の書類だったの?」
「いや、ほぼ本物だ。但し、愛人と豪遊したとか言う事実は無いから、あれは嘘。その金で賃金を支払っていたから必要経費では有るけど。たまに貴金属を買う金を欲しがるので結構な出費になってたな。君に事実を告げるリスクを減らす為に、まあ、口止め料だよ。君が作った書類は後から私が見直してたから。でも、ほぼ完璧で直す所はあまり無かった。たまにスペルが違ったり、宛名が違ったりしたくらいかな」
「もうやらないから。秘書雇いなさいよ秘書」
「ああ。これからは君に伯爵夫人として家宰に着いてもらうから。家の事は全て君に任すよ」
「ちょっと!また私にやらせるの?家宰なんて.........今まで通り執事がやれば良いじゃない」
「ふむ.......別に構わないよ。でも.........かなり暇になるんじゃ無いかな?何かしたい事が有るなら良いけど。お茶会とか.........積極的に催すかい?」
「家宰の件、考えておくわ.........」
「要らないわよ、そんな権利!私はそんな異常性癖持ち合わせて無いの。やるなら.........自分でやれば?」
「.........分かった」
「ーーーっ」
彼はそう言うと右耳を片手で引っ張りながら持ち、左手にハサミを持ち替え、刃を耳に当て........
「やっ!ダメ!!!」
私は反射的にベッドから飛び降り彼の左手を捕まえる。
「.........アリエラ.........」
「はぁ.........馬鹿じゃ無いの?望んで無いって言ってるのよ!もう!.........もう.........そんな事しないでっ」
「アリエラでも.........償い切れない事をして来たんだ。何か見える形で返したい」
「それがこれ?ふざけないでよ!こんな事して許すとでも思ったの?嫌味たらしいだけよ!やめて頂戴。絶対しないで!!」
「.................分かった」
私はふぅっと息を吐いた。
「傷付いたけど、傷付いて欲しいなんて思った事はない。悔しくて悲しかったけど、貴方に同じようになって欲しい訳じゃ無いわ」
「.................アリエラ」
私は彼の手からハサミを取り上げてベッド横のサイドテーブルの引き出しに仕舞った。
「私、貴方から離れると身体が崩れちゃうんでしょ?これ、一生?」
「.................いや、第5段階を行えば離れても平気になる。........でも今は出来ない」
「なんで?」
「.........効果が.........薄いかも知れないから。それに、君も嫌がるだろうし」
「嫌がる事なの?何をするのよ?」
「.................今は言えない」
「何よそれ?でもしなくちゃいけないんでしょ?」
「しなくても儀式から2ヶ月くらいまでなら魔力が補ってくれる」
「へぇ.........じゃあ、良いわ。ねぇ、私父様や母様に会いたいわ。どこまで離れたらダメなの?」
「私が連れて行こう。使いを出すから。明日でも構わないか?」
「ええ。良いわ。本当の事ならね。魔術とやらで嘘を見せるつもりなら今すぐ走って逃げてやる」
「嘘じゃない。えっと.........あ、手紙なら有る。最近の物だ。ちょっと待ってて」
彼はそう言いながら隣の部屋へ入って行く。そう言えば隣は何の部屋かしら?
「持って来た。これだ。君の父君と母君の2人からなんだ。良い事が書いてある」
「良い事?」
「.........君には.........辛い事かも知れない」
「良い事が書いてあるのに私には辛い事?何よそれ.........」
渡された手紙を受け取る。宛名は伯爵宛。封筒には名は無かった。
中を開いて便箋を開けてみる。
「!」父の字だ。
筆圧にクセがある見覚えのある字。内容は男爵領の現在の状態と支援を受けている事業の業績。傾向と問題点などだ。これを見る限りは良好だと感じる。ちゃんとした数字が無いので何とも言えないが。最後は感謝の言葉で締められていた。日付は一月前。
4枚目は母の字だった。
私の身を案じる内容だった。涙がポロリと溢れる。母様.........会いたい!
だが、最後の三行に驚いて私は思わず「え"!!」と声が出ていた。
『もう直ぐ息子も5歳になります。毎日元気でやんちゃです。歳の離れた姉弟を早く合わせてあげたい。どうか一度アリエラと会わせて下さい』
「.................弟?私に弟が?嘘.........っ」
「君が嫁いで来てから割と直ぐに.........」
「................5歳.........17歳も離れてる」
「う、ん。まあ、仲が良くて、良い事だよ」
「..........そうね。仲は.........良かったけど....」
何だがヒュッと涙が引っ込んだわ。
私はフッと笑う。手紙からは悲壮な感じはまるで無く、幸せな家族像が見て取れた。
私が6年間この屋敷で何をされて来ていたかなんて彼らは知らないのだ。今更だが除け者だ。そんな中に.........帰れはしない。
「.........ねぇ、やっぱり暫く帰るの止めるわ。今会うには.....確かに辛いもの。色んなモノを壊しそう」
「そうか。分かった。君は.........優し過ぎるな」
「違うわ。後から後悔する事が怖いだけよ。失う事に慣れてしまっただけ。それが全部嘘だったとしても、ね」
「アリエラ.........済まない」
シュンとする夫を見ながら私は手紙を封筒の中に戻し、彼に差し出した。
「支援、続けてくれてたのね。ありがとう。父は経営があまり得意じゃなかったから。ところで、私がこなしてたあの書類も全部嘘の書類だったの?」
「いや、ほぼ本物だ。但し、愛人と豪遊したとか言う事実は無いから、あれは嘘。その金で賃金を支払っていたから必要経費では有るけど。たまに貴金属を買う金を欲しがるので結構な出費になってたな。君に事実を告げるリスクを減らす為に、まあ、口止め料だよ。君が作った書類は後から私が見直してたから。でも、ほぼ完璧で直す所はあまり無かった。たまにスペルが違ったり、宛名が違ったりしたくらいかな」
「もうやらないから。秘書雇いなさいよ秘書」
「ああ。これからは君に伯爵夫人として家宰に着いてもらうから。家の事は全て君に任すよ」
「ちょっと!また私にやらせるの?家宰なんて.........今まで通り執事がやれば良いじゃない」
「ふむ.......別に構わないよ。でも.........かなり暇になるんじゃ無いかな?何かしたい事が有るなら良いけど。お茶会とか.........積極的に催すかい?」
「家宰の件、考えておくわ.........」
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