アンデッド・レシピ【正しい妻の作り方】〜呪われた夫に死んでから溺愛されました〜

第一幕

23. 経過観察：過去を知る者との接触解禁

　ホールの扉の前で廊下側に向かい直立した2人の姿が見える。筆頭執事のヒューイと侍女長のマキナだ。2人は私達の姿が見えると頭を下げてお辞儀をしたまま動かない。

「旦那様。おめでとうございます。この度の真妻の儀のご成功心よりお祝い致します。そして奥様。誠に申し訳ございませんでした。儀式の為とは言え、奥様な対して大変な礼を欠くを行いをして参りました事、深くお詫び致します。申し訳ございませんでした。今後は我々屋敷の者、一丸となりまして奥様が過ごし易い環境を整えて参ります。どうぞご安心下さいませ」
「.........はい」

　あのヒューイが.........。いつも無言で挨拶もせず、こちらの存在を無視し続けていた彼もまた私をアンデッドにする為に.........そう。

「奥様。私達も同じ事をして参りました。お許し頂けるとは思ってはおりません。ですからこれから誠心誠意勤めさせて頂きます。わたくし達に奥様をお世話させて下さいませ。この6年間.........本当に.........辛かった。代々伯爵家に勤めさせて頂いております故、前伯爵様の時も経験しております。暫くわたくしが奥様のお側にお使え致しますのでなんなりとお申し付け下さいませ」
「.........はい」

　侍女長のマキナだ。そう言えば確かに絶妙なタイミングで食事を出したり出さなかったり.........飢えるが立てなくなる程でも無い、そんな間隔で出されてたっけ。今から考えたら割と栄養バランス考えたメニューだったかも。しかもお風呂とかトイレは掃除してあったのよね。シーツなんかの洗濯物は洗ってくれなかったけど.........
　これもみんな私をアンデッドにする為.........伯爵の真の妻にする為に.........。

　本当、だったんだろうか。やはり私は.........一度死んでいるのだろうか？
　認めざる終えないのかな.........。
　そう.........なら、仕方がない。いや.........私は有り意味、未来を手に入れたと言えるか。

「さあ、ホールに皆集まっております。改めて本日の門出を祝いましょう！」

　ヒューイがそう言ってホールへの扉を開いた。
　このホールは夜会などを開く時に使われる広い空間で、天井からは煌びやかなシャンデリア、光源確保の為の鏡が至る所に付いている。壁には赤いベルベットが張り巡らされており大きなガラスの窓が嵌め込まれていた。床は高級な無垢の堅木一枚板がふんだんに使われている。

　私は勿論使った事など無い。伯爵家では夜会は年に一度盛大に執り行われてきていたがこの6年間夫は愛人役をエスコートして来たのだ。私は私の執務室で日々と変わらず仕事をしていた。夜会の日を教えられるでも無く、ドレスを買い与えられる訳でも無い。毎日変わらず書類だけを渡されるだけ。だが、別に構わなかった。煌びやかな世界が好きな訳では無かったからだ。伯爵夫人として認められていなくても何とも無かった。煩わしくなくて丁度良かったのだ。あの愛人役のピナーナが来るまでは。

　あの人だけは私を目の敵にして来た。恐らく自分が伯爵夫人になりたかったのだろうけど。それならそれでやり様は幾らでもある筈なのに、私を暴力で攻撃する事しか出来ない。
　彼女が来てから2度程、何処からか男達を連れて来て強姦させようとしたみたいだけど.........
　実は過去何度かあるのだが全て未遂で終わっている。誰かが必ずタイミング良く訪ねて来るからだ。それが何処であっても。

　拐かしもされそうになったがやはり未遂に終わる。助け出されたと言うより、馬車に暫く放置されていたのを自力で逃げ出したのだが.........周りには誰もおらず、そう遠くない場所だったのでテクテク歩いて屋敷に戻った。慌てていたのはピナーナだけで周りは静かなものだった。

　毒を飲まされそうになった時は別に誰も助けてはくれなかったが、余りに不自然だったので飲む振りをしてトイレに駆け込んで難を逃れた。

　灘なたを持って現れた時は流石に物置きに小さくなって隠れた。屋敷内で殺人も何とも思わないのか、大分イカれていた女だった。容姿は赤毛の色白で、美人だと思うが気持ち悪い息苦しさを感じる赤黒い目をしていた。
　分かり易い欲望が面に出た女の顔だった.........。

　あんなに夫に執着していたのに本当に諦めたのかな？どうやったんだろう？