アンデッド・レシピ【正しい妻の作り方】〜呪われた夫に死んでから溺愛されました〜

平川

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第一幕

28.経過観察:不穏な影

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 伯爵は護衛と伝達係を連れ立って診療所を訪ねていた。
 最近この街で不審死が相次いでいると嘆願書と報告書が来ていたからだ。被害者は5名。決して少なくない。

「これは伯爵様。わざわざお越しいただきまして恐縮でございます」
「知らせを受けて来た。どうだ?被害者の死因は解ったか?」
「は、はい。こちらに収容された遺体はどれも心の臓が突然止まって起こるショック死のようです」
「全員が、か?何が起きたんだ」
「理由は不明です。.....その.........被害者は全て男でして、共通している事がありまして.........」
「共通?」
「その.........行為後だったと思われます」
「.................ふん。他には?」
「目が」
「目?」
「眼球を片方だけ抉り取られておりました。.........全員」
「異常者による........殺人か。女性か?」
「しかし外傷はその目の辺りだけでして、薬や酒で死亡している訳では無いのです。ですので殺人かどうかまでは.........」
「心の臓を止める.........方法、か。それで不審死であって殺人では無い訳だね」
「そうです。全員をショック死させる方法が、私には判りませんでした」
「.........解った。その遺体見せてくれるかな?」
「はい、こちらに.........」

 奥まった暗い部屋に案内された先に5体の死体が布に包まれ木板に横たわっている。
 伯爵はその布を一つ一つ開けて確認していく。

「.........知っている顔が.........2人も居る。それにこれは.........」

 そこに居た動かぬ人物達は.........
 伯爵が一時期あのピナーナに付けていた監視兼情夫だった。
 理由は勿論ピナーナと手を切る為だ。一筋縄では行かないと判断した。
 伯爵自体は行為はしていないが、術を掛けてしていた様に錯覚させていた。暫くするとその記憶も無くなるので、実際には女性の方も行為をしていないのは解っている筈なのだが、皆それでも本気になって伯爵を落とそうとして来る。そうなると面倒なので契約は3ヶ月毎の短いスパンにして次々に契約を切っていった。

 だがこの最後の愛人役ピナーナは、まずアリエラを始末しようと最初から狙って行ったのだ。7つの悪を植え付け恨ませる絶好のチャンスだと思った。伯爵は強姦と拐かし以外は防がず、手を出さなかった。
 すると1年半以上もの間、屋敷に居座りを許してしまった。その間にアリエラはボロボロにされた。耳を切られ消えない傷や痣を付けられた。貴金属も結婚指輪も全て取られ、果ては斬り殺されそうになっていた。
 勿論伯爵もその異常性には気付いていたが、アリエラからは助けを求められ無かった。ギリギリの所でいつも回避するのだ。それは彼女の冷静で予測を踏まえた行動と思考によるものだ。
 関心しながらもヤキモキしていた。

 7つの悪をその身に体感して来たアリエラに伯爵はいつしか

「もう..................良い.................」

 もう、頑張らなくて良い。そう、呟くようになっていた。

 その頃からピナーナに世話係の名で与えておいた、金で雇った男達。どちらも金髪で街の男娼宿にいた者だった。見た目はまあまあ整っていた。
 充分金を与え契約しておく。男娼だから男からはピナーナには手は出さない。逆にピナーナが男共に手を出したら弾弓出来る。そして案の定.....子が出来たらしい。

 ここに横たわる5人全員が.........金髪。伯爵程の色は無いが皆金髪だ。

「.................まさか.........ピナーナか?だがあの女は今身重なんじゃ無いのか?しかも相手は.........この2人の内どちらかじゃ.........いや、それより、どうやって?」


 ****


「アリエラ、ここにしようか。川沿いにテラスがある」
「ええ、わかったわ。良い席が空いてるわね、良かった」

 この街は伯爵が治める領地の一番賑わいのある街で大規模であった。移民の制限がされており、大きな橋の先に石の門が有り、人々は通行証を持って出入りしている。王都へも比較的近く、定期便も毎日走っている。海からは遠いが、大きな街なので商人達が一度は滞在する中継地点としても賑わっていた。また、街の真ん中に中規模の河川が流れており、川遊びの船や観覧船も見える。この辺りには様々な店が立ち並んでちょっとした露店も数多く出されていた。伯爵家屋敷はそこから山沿いに進んだ閑静な場所にある。街から東を見上げればその屋敷の城壁が見えるのだ。

 私達はレンガ色のタープが並ぶ川沿いのテラスがあるカフェに入って行った。
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