モーリ・メアの物語

とある老人

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プロローグ

物語の始まりは

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「おじーちゃあーん!!」
小鳥がさえずり、暖かい日の光が差し込む穏やかな午後。そんな午後はある少年の活気あふれる声で破られる。
どだどだと家中を駆け回り、目的の部屋へと向かう。
「おーじーーちゃあーーん!!」
どんどんと少年は、たくさんの葉がなった大きな木の絵が彫られている扉をめいっぱいにたたいた。すると、ぎいっと思い音を立てながら書庫の扉が開く。
「そんなにたたかなくとも、きこえているよ」
扉を開けた「おじいちゃん」と呼ばれる人物は、糸のように目を細め穏やかに微笑んだ。
そんなおじいちゃんに少年はぷうっと頬を膨らませ、上目遣いに言う。
「だあって、おじいちゃん、ご本を読む時間になってもぜーーんっぜん、来ないんだもん!!」
「すまないね。私も近頃、思うように身体が動かなくてね。今からきみの部屋に行こうと思っていたんだよ」
「むう~。だったらいいけど・・・。だあって、僕もうお兄さんだもんね!!」
「ん?・・・・あぁ、そうか。明日から魔法学校の初等部に通うんだったね」
ふいと部屋の壁にかけられているカレンダーに目をやる。
「そうか・・・。きみももう、5歳か・・・」
「そうだよ!!それでね、明日からこのお話の時間は来られないからね、昔から聞きたかったお話をしてほしいんだ!!」
「はっはっは。そうか、まだお話ししていなかったね。さあ、ここで話すには長くなるから、紅茶を飲んでクッキーでも食べながら聞かせてあげよう」
「やったー!!」
おじいちゃんはそっと扉を大きく開き、少年を迎え入れる。少年は再びどだどだと部屋に駆け込んだ。部屋の中には大きな窓とその前に四角いテーブルと年季の入った椅子が置かれている。少年によって落書きされた机には似つかわしくない上品で大きな椅子だ。大の大人が一人座っても、小さな子供くらいなら余裕で座ることが出来る。そして、一人で寝るのには十分な大きさのベッド、それらを囲むようにして置かれる本棚。本棚にはいままで聞かせてくれた本や見たことのない言語で書かれている本も置かれている。少年は棚に並べられている本の背表紙を端から順に見ていく。悪魔によって眠らされた王子様を救いに行くお姫様の話、おばあちゃんを助けるため狼と戦う少女の話、愛する女性のためにガラスの靴を作り続ける男の話-。さらには鬼と共にさらなる悪に立ち向かう青年の話なんて。まだまだ聞かせてもらっていないたくさんの宝が、おじいちゃんの書庫にはある。
「さてさて、あの本はここに・・・。お、あったぞ」
少年が振り返ると、おじいちゃんは引き出しの中から一冊の古びた本を出していた。茶色く古びた本は所々がシミによって汚れている。革の表紙には何も書かれていない。「よっこらせ」と大きな椅子に座り、余裕がある隣のスペースをぽん、と手でたたきながら、にっこり笑った。
「さあ、こちらへ来なさい。お話をしてあげよう」
「うん!!」
少年はちょこんとおじいちゃんの隣に座る。おじいちゃんは、きらきらと輝く少年の顔を見て、満足そうにうなずくとぱらり、と本を開いた。
「さあ、魔法の才能がなかった少年の、『最大の魔法』を探す冒険の物語だ」
おじいちゃんは静かに優しく心地よい声で語り始めた。
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