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第5話 意味が分からなくても良い
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風車の前に立っていると、頭の上から声をかけられた。自然と顔がそちらへ向く。少女も僕とまったく同じ動作をした。何らかのリンクがあるのかもしれない。
風車といっても、細長い棒の先に回転する羽が付いているだけではなく、支柱はある程度の太さがあり、内部に入れるようだった。壁面の何ヶ所かに窓がある。階段状に設けられた窓の内、僕たちの正面にある一番上の窓から、誰かが顔を出していた。
声と仕草から、それが女性だと分かる。ただし、ただの女性ではなかった。頭から角が生えている。細長く尖ったタイプのものではなく、アンモナイトのように回転した構造をしていた。
「ようこそ、お出で下さいました」
女性が小さく手を振りながら僕たちに話す。先ほどまでは、えいとか、おいとか、そんなかけ声を上げているだけだったので、彼女の言葉らしい言葉を聞くのはそれが初めてだった。
僕と少女は一度顔を見合わせる。その動作も同時だった。息がぴったり合っている。先ほどまで一緒に楽器の練習をしていたからかもしれない。
「どうぞ、お上がりになって」
女性がそう言うとともに、風車を支えている建物の根もとにあるドアが、音を立てずにゆっくりと開いた。建物もドアも石造りになっている。本当に石造りかは分からないが、少なくとも見た目はそのようになっていた。
少女が僕より先に建物の中に入る。どうしようかと迷ったが、僕も彼女についていった。
背後でドアが閉まる。
薄暗い室内。
建物は塔状だから、当然上方向に伸びている。壁面に沿うように階段が設けられ、踊り場は一切ないため、頂上まで一度に見上げることができた。一番上にドアがあるのが見える。先ほどの女性はその先にいるだろうと予測した。
窓から僅かに光が入ってくるだけの薄暗い階段を、僕と少女は上がっていった。途中で彼女が僕の手を引いてくれた。どうしてかは分からない。でも、手を取ってもらえたことが嬉しくて、僕は抵抗せずにそれに従った。
「嫌だった?」
少女がこちらを振り返り、僕に尋ねる。
「いや」
「あ、嫌なの?」
「いい」
階段は長いようで短く、短いようで長い。修辞ではなく、本当にそんな感じだ。上方向にぐるぐる回りながら進むので、平面上の座標は変わらないだろう。だから、同じところを何度も繰り返し歩いているとも解釈できる。
階段を上りきり、ドアの前まで来ると、そのドアが向こう側に開いた。
明るい光。
目の前に女性が立っていた。
「ようこそ」
僕たちは軽く頭を下げる。
女性は想像していたより背が高かった。僕たちよりも遙かに高い。腕や脚は間違いなく人間のそれだったが、頭だけは少し違った。目の色も特徴的だ。一見すると異形という感じだが、それでも恐怖心は沸かなかった。むしろ包容力がある。自分の母親と言われても、疑わないかもしれない。
女性に招かれて、僕と少女は部屋の中に入った。部屋には一つだけ窓があった。あまり広くはないが、錐状の構造になっているため、体積はそれなりにありそうだ。入り口の付近にレンガ造りのキッチンがある。すぐ傍に暖炉もあった。今は火は点いていない。
コンロの上に置いてあったポットをこちらへ持ってきて、女性はすでに机の上に用意されていたカップにその中身を注いだ。彼女に促され、僕と少女は机の周囲に置かれた椅子に座る。
カップに注がれたのはハーブティーのようだった。飲んでみると、苦味と酸味が適度に配合した程良い味わいが得られた。
僕の正面、少女の右隣に女性が座る。
「あなた方を待っていました」女性が言った。「先ほどまで、楽器を演奏されていましたね?」
「ここは、どこですか?」僕はずっと疑問に思っていたことを尋ねた。
「どこだと思いますか?」
「魔法の国ですか?」少女が言った。
彼女の言葉を聞いて、女性は少し笑った。優しい笑顔だった。
「そんなようなものです。お二人を招いたのは、ここで音楽家として働いてもらうためです」
「音楽家?」僕は問い質す。
「ここには、音楽を嗜む者がおりません」女性が説明する。「その役割を、お二人に担っていただきたいのです」
「あの、お言葉ですが、僕たちはプロでも何でもありません。ただ、目の前に楽器があったから、触ってみただけです。何の技術も持ちません。だから……、そんな簡単にはいきません」
「いえ、できます」僕の答えを遮って、少女が言った。「任せて下さい」
「そう言ってもらえると思いました」
女性は一口ハーブティーを飲む。それに倣って、僕たちも飲み物を飲んだ。
「プロでない方がよいのです」女性は話す。「音楽とは、本来、誰でも楽しめるものでなくてはなりません。試行錯誤して、素敵な音が出れば、それでよいのです」
僕と少女は、その日から魔法の国の住民になった。
僕と彼女の音楽生活が始まった。
風車といっても、細長い棒の先に回転する羽が付いているだけではなく、支柱はある程度の太さがあり、内部に入れるようだった。壁面の何ヶ所かに窓がある。階段状に設けられた窓の内、僕たちの正面にある一番上の窓から、誰かが顔を出していた。
声と仕草から、それが女性だと分かる。ただし、ただの女性ではなかった。頭から角が生えている。細長く尖ったタイプのものではなく、アンモナイトのように回転した構造をしていた。
「ようこそ、お出で下さいました」
女性が小さく手を振りながら僕たちに話す。先ほどまでは、えいとか、おいとか、そんなかけ声を上げているだけだったので、彼女の言葉らしい言葉を聞くのはそれが初めてだった。
僕と少女は一度顔を見合わせる。その動作も同時だった。息がぴったり合っている。先ほどまで一緒に楽器の練習をしていたからかもしれない。
「どうぞ、お上がりになって」
女性がそう言うとともに、風車を支えている建物の根もとにあるドアが、音を立てずにゆっくりと開いた。建物もドアも石造りになっている。本当に石造りかは分からないが、少なくとも見た目はそのようになっていた。
少女が僕より先に建物の中に入る。どうしようかと迷ったが、僕も彼女についていった。
背後でドアが閉まる。
薄暗い室内。
建物は塔状だから、当然上方向に伸びている。壁面に沿うように階段が設けられ、踊り場は一切ないため、頂上まで一度に見上げることができた。一番上にドアがあるのが見える。先ほどの女性はその先にいるだろうと予測した。
窓から僅かに光が入ってくるだけの薄暗い階段を、僕と少女は上がっていった。途中で彼女が僕の手を引いてくれた。どうしてかは分からない。でも、手を取ってもらえたことが嬉しくて、僕は抵抗せずにそれに従った。
「嫌だった?」
少女がこちらを振り返り、僕に尋ねる。
「いや」
「あ、嫌なの?」
「いい」
階段は長いようで短く、短いようで長い。修辞ではなく、本当にそんな感じだ。上方向にぐるぐる回りながら進むので、平面上の座標は変わらないだろう。だから、同じところを何度も繰り返し歩いているとも解釈できる。
階段を上りきり、ドアの前まで来ると、そのドアが向こう側に開いた。
明るい光。
目の前に女性が立っていた。
「ようこそ」
僕たちは軽く頭を下げる。
女性は想像していたより背が高かった。僕たちよりも遙かに高い。腕や脚は間違いなく人間のそれだったが、頭だけは少し違った。目の色も特徴的だ。一見すると異形という感じだが、それでも恐怖心は沸かなかった。むしろ包容力がある。自分の母親と言われても、疑わないかもしれない。
女性に招かれて、僕と少女は部屋の中に入った。部屋には一つだけ窓があった。あまり広くはないが、錐状の構造になっているため、体積はそれなりにありそうだ。入り口の付近にレンガ造りのキッチンがある。すぐ傍に暖炉もあった。今は火は点いていない。
コンロの上に置いてあったポットをこちらへ持ってきて、女性はすでに机の上に用意されていたカップにその中身を注いだ。彼女に促され、僕と少女は机の周囲に置かれた椅子に座る。
カップに注がれたのはハーブティーのようだった。飲んでみると、苦味と酸味が適度に配合した程良い味わいが得られた。
僕の正面、少女の右隣に女性が座る。
「あなた方を待っていました」女性が言った。「先ほどまで、楽器を演奏されていましたね?」
「ここは、どこですか?」僕はずっと疑問に思っていたことを尋ねた。
「どこだと思いますか?」
「魔法の国ですか?」少女が言った。
彼女の言葉を聞いて、女性は少し笑った。優しい笑顔だった。
「そんなようなものです。お二人を招いたのは、ここで音楽家として働いてもらうためです」
「音楽家?」僕は問い質す。
「ここには、音楽を嗜む者がおりません」女性が説明する。「その役割を、お二人に担っていただきたいのです」
「あの、お言葉ですが、僕たちはプロでも何でもありません。ただ、目の前に楽器があったから、触ってみただけです。何の技術も持ちません。だから……、そんな簡単にはいきません」
「いえ、できます」僕の答えを遮って、少女が言った。「任せて下さい」
「そう言ってもらえると思いました」
女性は一口ハーブティーを飲む。それに倣って、僕たちも飲み物を飲んだ。
「プロでない方がよいのです」女性は話す。「音楽とは、本来、誰でも楽しめるものでなくてはなりません。試行錯誤して、素敵な音が出れば、それでよいのです」
僕と少女は、その日から魔法の国の住民になった。
僕と彼女の音楽生活が始まった。
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