付く枝と見つ

羽上帆樽

文字の大きさ
1 / 50

第1部 u

しおりを挟む
 薄暗い部屋の中。少女はベッドの上に寝転んでいた。

 という記述をすると、どうして寝転んでいるのか、何か具合が悪いのか、と考えたくなるのが、人間というものだ。しかし、彼女が寝転んでいることに、これといって特別な理由はない。強いて言えば、そこが彼女の定位置だというくらいの意味しかない。しかない、と表現するということは、これを記述している者は、その事態を大したものとは捉えていないということになる。

〈オキテクダサイ、オジョウサマ〉

 室内に奇天烈な音声が響く。

 少女は起きない。

 その音声は、部屋にある勉強机、その上に置かれた四角い箱、の中、から発せられたみたいだった。この手の推測は、しかし、実は推測の域を超えている。本当は確かなことなのに、あたかもほかの可能性があるかのように記述されるのだ。物語に典型的な手法の一つといえる。

〈オジョウサマ〉

 また、声。

 ベッドで寝転んでいた少女は、寝返りを打ち、そうしてから、片方の目を開けた。意外としっかりとした動作だった。時間にして〇・二秒程度。眼球は水圧を受けつつも軽快に動き回り、仕舞いには声の主を正確に捉えた。

「何?」少女は口を利く。利かないという選択肢は彼女にはなかった。実のところ、彼女は優しい。ただ、優しくない素振りを見せていた方が、後々自分にとって得だということを知っているだけだ。

〈アサデス。オキテクダサイ、オジョウサマ〉

「その、お嬢様っていう言い方、いい加減やめない?」

〈ドウシテデスカ? オキニメシマセンカ?〉

「別に、何でもいいけどさ」そう言って、少女は飛び上がるように起きた。反作用を受けてベッドが少々揺れる。「なんだか、わざとらしいと思って」

〈ワザトラシイノハ、キライデスカ?〉

 少女はその場で伸びをする。白いレース生地のドレスが少々捲れ、透き通るような肌が部分的に露わになった。というより、彼女は身体の一部が本当に透き通っている。つまり、内臓器官や、骨格が、見る角度や明るさによって透けて見えるのだ。

「嫌いではないけど」少女は答えた。「そんなこと言ったら、貴方なんて、充分わざとらしいじゃない?」

 少女の名前はシロップと言った。本名か、コードネームか、誰も知らない。一方、机の上から奇天烈な声を発するその箱には、名前がない。だから、便宜上、少女は彼をデスクと呼んでいる。いつも机の上にあって、もはや机と一体化しているとも思えるから、デスクだ。

 デスクは、おそらく金属製で、金庫のように硬質な体裁をしている。というより、彼はもはや金庫だ。彼のことを知らない者が見たら、そう判断するだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...