30 / 50
第30部 sa
しおりを挟む
最近心配されてばかりだなと、シロップは思う。運転手にも、目の前の少女にも、大丈夫かと言われ頻りだ。頻りという言葉は、最近覚えたばかりのもので、だから使い方が合っているか分からない。けれど、いつまでも使わないと、いつまでも使えないままだから、ここで使ってみようと考えた次第だった。
という心の声は、目の前の少女には聞こえていないだろうか。
半袖のワイシャツを着ているせいで地肌が晒されている腕を伸ばして、少女が手を差し出してくる。シロップはその手を掴んで立ち上がった。立ち上がると、少女の目がすぐ目の前にあった。身長差はあまりないから、視線が並行する。
暫くの間、互いに互いを見つめた。シロップは、自分が彼女の目に引き寄せられるのを感じて、やがて目を逸らした。左側の黒い地面を意識的に見る。
「どうもありがとう」そちらを見たまま、シロップは言った。
「どういたしまして」と正面から声。
沈黙。
沈黙に耐えられないということは、普段のシロップにはあまりないが、相手が初対面の人物ということもあって、彼女は恐る恐るまた正面に視線を戻した。口を開こうとしたが、そのゼロコンマ一秒先に少女の方が声を発した。透き通る空気を引き裂くようにはっきりとした声だった。
「ドライバーを持っていますか?」
少女の問いに、シロップは少し反応が遅れた。何を言っているのか分からなかった。彼女が尋ねた対象のこと、そして、彼女がその存在を知っていることに対して、疑問符が貼り付けられた。
声を出すことができなかったが、気づくとシロップは頷いていた。
「貸してもらえませんか?」
「どうして?」シロップはとりあえず尋ねる。
少女はシロップが先ほど見たのとは反対側の地面に視線を向けると、暫くそのまま停止した。心臓も一緒に止まってしまったのではないかと思えるほど静かだった。
やがて視線をシロップの方に戻して、彼女は答える。
「説明が複雑なので、私と一緒に来てもらえませんか?」彼女は言った。「当然、物を修理するために必要なんです。ドライバーなので」
シロップは、頷いた。
頷こうと思った瞬間には、もう頷いていた。
という心の声は、目の前の少女には聞こえていないだろうか。
半袖のワイシャツを着ているせいで地肌が晒されている腕を伸ばして、少女が手を差し出してくる。シロップはその手を掴んで立ち上がった。立ち上がると、少女の目がすぐ目の前にあった。身長差はあまりないから、視線が並行する。
暫くの間、互いに互いを見つめた。シロップは、自分が彼女の目に引き寄せられるのを感じて、やがて目を逸らした。左側の黒い地面を意識的に見る。
「どうもありがとう」そちらを見たまま、シロップは言った。
「どういたしまして」と正面から声。
沈黙。
沈黙に耐えられないということは、普段のシロップにはあまりないが、相手が初対面の人物ということもあって、彼女は恐る恐るまた正面に視線を戻した。口を開こうとしたが、そのゼロコンマ一秒先に少女の方が声を発した。透き通る空気を引き裂くようにはっきりとした声だった。
「ドライバーを持っていますか?」
少女の問いに、シロップは少し反応が遅れた。何を言っているのか分からなかった。彼女が尋ねた対象のこと、そして、彼女がその存在を知っていることに対して、疑問符が貼り付けられた。
声を出すことができなかったが、気づくとシロップは頷いていた。
「貸してもらえませんか?」
「どうして?」シロップはとりあえず尋ねる。
少女はシロップが先ほど見たのとは反対側の地面に視線を向けると、暫くそのまま停止した。心臓も一緒に止まってしまったのではないかと思えるほど静かだった。
やがて視線をシロップの方に戻して、彼女は答える。
「説明が複雑なので、私と一緒に来てもらえませんか?」彼女は言った。「当然、物を修理するために必要なんです。ドライバーなので」
シロップは、頷いた。
頷こうと思った瞬間には、もう頷いていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる