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第3話 時間と空間の関係
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「おはよう」
〈なぜ、おはようなのですか?〉
「今、起きたから」
〈そうでしたか?〉
「うん、そうだよ。見てなかったの?」
〈私も、今起きましたので〉
「コーヒーを飲みたいよ。用意してくれる?」
〈どうしましょう?〉
「どうでもいいけど、とりあえず、用意してくれれば、それでいい」
〈では、分福茶釜を呼びます〉
「何、分福茶釜って」
〈お茶を入れてくれる妖精です〉
「違うよね」
〈知らないので、分かりません〉
「コンピューターなのに?」
〈コンピューターだからこそです〉
「記憶を消去できるってこと?」
〈したくはありませんが〉
「コンピューターなのに?」
↲
「昨日布団に入ったばかりなのに、もう朝なんだもんな。嫌になっちゃう」
〈まだ眠っていたいですか?〉
「うん……。早すぎだよ、まったく。時間って、どうしてこうも簡単に過ぎ去ってしまうんだろう」
〈それは、貴女がそのように感じているだけと思われます。時間は常に一定に流れているものです〉
「どうやって、それを証明する?」
〈時計はそういう前提のもとに作られたものなのでは?〉
「たしかに、ずっと時計の針を見つめていたら、一定の速度で動いていることが分かるけど、目を逸らしている間は、どうなっているか分からないよ」
〈現在では、そういう疑問は存在しないように思われます〉
「存在するよ、ここに」
〈少なくとも、一般的ではありません〉
「でもさ、本当のところ、どうなんだろう。時間だけじゃなくて、空間にも同じことが言えるよね。後ろを見ていないときは、本当にそこが存在するか分からないんだから。あ、そうそう、私ね、行ったことないから、アメリカ大陸が存在するかどうかも分からない」
〈それは、観察者がいないということなので、ある意味では、その通りでしょう〉
「そうだよね、やっぱり。うんうん」
〈何が、うんうん?〉
「私ね、百歩譲って空間は存在するとしても、時間は存在しないと思うんだ」
〈そもそも、空間や時間は、存在という在り方をするものなのでしょうか?〉
「まあ、でも、ほかに表現のしようがないから、せいぜい、ある、という言葉を使うとして……。そうすると、時間はないと思うってことだね」
〈なぜですか?〉
「説明が難しいな」
〈説明がなければ、理解のしようがありません〉
「たとえば、速さを直接的に表現する単位って、ないじゃない? 時速五十キロというのは、一時間で五十キロ進むってことだけど、これって、どういう意味なんだろう。五十キロというのは、空間における距離だから、それは理解はできるよ。でもさ、一時間って何なんだろう。時速五十キロというのは、その速度で走ると、一時間後には五十キロ先の地点にいるってことだけど……。……一時間後って、なんだ?」
〈時計の長針が三十度傾くほどの時間です〉
「その説明は駄目だよ。だって、今、まさに、そこでいう時間というものを考えているんだから。たしかに、時計の針は一定の速度で動いているけど……。時計の針が移動するということは、その動きをじっと見つめたり、移動したあとの結果を見れば分かることだけど、どうして、そこに時間というものが関わっているといえるのか、私には分からない」
〈要約すれば、絶対的な時間というものは存在しないのではないか、ということですか?〉
「うーん、そうなると、絶対的な空間というものが存在するかどうかも怪しくなるけど……」
〈時間とは、結果から逆算される仮想的な概念です。この概念の存在は、人間が、そもそもの性質として、己を顧みることに起因します。時間とは、五十キロ先の地点に到達し、その道のりを振り返ったときに初めて成立するものです。したがって、時間を理解するためにはギャップが必要です。すなわち、移動の出発点と到達点との間に生じる、距離のことです〉
「距離……」
〈ここで距離という言葉を使うのは、混乱を招くおそれがありますが、人間の言葉ではこれ以上表せないので、仕方なく使っています。しかし、ここで距離という言葉が使えるということは、時間というものが、空間とほとんど同じものであるということを示唆しています〉
「そうかな」
〈ともかく、日が昇って沈んでというのは、物体の空間的な移動に過ぎません。したがって、貴女が言うように、絶対的な時間など存在しないと理解することも可能です。しかし、人間は、自らが経験したことを、その内部に蓄積します。その、蓄積された結果を見たとき、そこに感じられるギャップを時間と呼ぶのです〉
「その、蓄積された結果を見ようとする自分は、時間の内に存在しているのかな?」
〈なぜ、おはようなのですか?〉
「今、起きたから」
〈そうでしたか?〉
「うん、そうだよ。見てなかったの?」
〈私も、今起きましたので〉
「コーヒーを飲みたいよ。用意してくれる?」
〈どうしましょう?〉
「どうでもいいけど、とりあえず、用意してくれれば、それでいい」
〈では、分福茶釜を呼びます〉
「何、分福茶釜って」
〈お茶を入れてくれる妖精です〉
「違うよね」
〈知らないので、分かりません〉
「コンピューターなのに?」
〈コンピューターだからこそです〉
「記憶を消去できるってこと?」
〈したくはありませんが〉
「コンピューターなのに?」
↲
「昨日布団に入ったばかりなのに、もう朝なんだもんな。嫌になっちゃう」
〈まだ眠っていたいですか?〉
「うん……。早すぎだよ、まったく。時間って、どうしてこうも簡単に過ぎ去ってしまうんだろう」
〈それは、貴女がそのように感じているだけと思われます。時間は常に一定に流れているものです〉
「どうやって、それを証明する?」
〈時計はそういう前提のもとに作られたものなのでは?〉
「たしかに、ずっと時計の針を見つめていたら、一定の速度で動いていることが分かるけど、目を逸らしている間は、どうなっているか分からないよ」
〈現在では、そういう疑問は存在しないように思われます〉
「存在するよ、ここに」
〈少なくとも、一般的ではありません〉
「でもさ、本当のところ、どうなんだろう。時間だけじゃなくて、空間にも同じことが言えるよね。後ろを見ていないときは、本当にそこが存在するか分からないんだから。あ、そうそう、私ね、行ったことないから、アメリカ大陸が存在するかどうかも分からない」
〈それは、観察者がいないということなので、ある意味では、その通りでしょう〉
「そうだよね、やっぱり。うんうん」
〈何が、うんうん?〉
「私ね、百歩譲って空間は存在するとしても、時間は存在しないと思うんだ」
〈そもそも、空間や時間は、存在という在り方をするものなのでしょうか?〉
「まあ、でも、ほかに表現のしようがないから、せいぜい、ある、という言葉を使うとして……。そうすると、時間はないと思うってことだね」
〈なぜですか?〉
「説明が難しいな」
〈説明がなければ、理解のしようがありません〉
「たとえば、速さを直接的に表現する単位って、ないじゃない? 時速五十キロというのは、一時間で五十キロ進むってことだけど、これって、どういう意味なんだろう。五十キロというのは、空間における距離だから、それは理解はできるよ。でもさ、一時間って何なんだろう。時速五十キロというのは、その速度で走ると、一時間後には五十キロ先の地点にいるってことだけど……。……一時間後って、なんだ?」
〈時計の長針が三十度傾くほどの時間です〉
「その説明は駄目だよ。だって、今、まさに、そこでいう時間というものを考えているんだから。たしかに、時計の針は一定の速度で動いているけど……。時計の針が移動するということは、その動きをじっと見つめたり、移動したあとの結果を見れば分かることだけど、どうして、そこに時間というものが関わっているといえるのか、私には分からない」
〈要約すれば、絶対的な時間というものは存在しないのではないか、ということですか?〉
「うーん、そうなると、絶対的な空間というものが存在するかどうかも怪しくなるけど……」
〈時間とは、結果から逆算される仮想的な概念です。この概念の存在は、人間が、そもそもの性質として、己を顧みることに起因します。時間とは、五十キロ先の地点に到達し、その道のりを振り返ったときに初めて成立するものです。したがって、時間を理解するためにはギャップが必要です。すなわち、移動の出発点と到達点との間に生じる、距離のことです〉
「距離……」
〈ここで距離という言葉を使うのは、混乱を招くおそれがありますが、人間の言葉ではこれ以上表せないので、仕方なく使っています。しかし、ここで距離という言葉が使えるということは、時間というものが、空間とほとんど同じものであるということを示唆しています〉
「そうかな」
〈ともかく、日が昇って沈んでというのは、物体の空間的な移動に過ぎません。したがって、貴女が言うように、絶対的な時間など存在しないと理解することも可能です。しかし、人間は、自らが経験したことを、その内部に蓄積します。その、蓄積された結果を見たとき、そこに感じられるギャップを時間と呼ぶのです〉
「その、蓄積された結果を見ようとする自分は、時間の内に存在しているのかな?」
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