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羽上帆樽

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第6話 仕事と趣味の関係

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「仕事と趣味って、どういう関係?」

〈一般的には、相反する関係として認識されているようです〉

「プラスとマイナスということ?」

〈いえ、プラスとプラス〉

「マイナスとマイナスでもあるよね?」

〈普通は、意味的に無標の側を選ぶので、そういう言い方はあまりしません〉

「そうだろうね。だって、皮肉だし」

〈なるほど〉

「私、今まで働いたことないけど、趣味を仕事にするのって、そんなに難しいことなのかな?」

〈貴女様の趣味はなんですか?〉

「読書と、音楽鑑賞と、貴方と話すこと」

〈それでは、難しいのでは?〉

「どうして?」

〈本を読むだけ、音楽を聴くだけ、私と話すだけでは、誰のためにもならず、お金にならないからです〉

「だけじゃないよ。たとえば、本を読んで評価を書く。音楽を聴いて感想を書く。貴方と話して……。うーん、最後の一つは、どうしたらいいのか分からないや」

〈本を読んで評価を書くにしても、音楽を聴いて感想を書くにしても、貴女が興味のあるものではなく、ほかの人が興味のあるものでなくてはなりません。それに、そもそもの問題として、誰かが書いた、本の評価や、音楽の感想を、お金を払って読みたいと思う人間が、どれほどいるでしょうか。ゼロではないとしても、それを仕事として成立させるのは難しいのでは?〉

「専門的に分析するんだよ、ちゃんと。つまり、論文と同じ」

〈なるほど。しかし、論文を読む人間こそ、限られるでしょう。単位が万になることすら難しいのでは?〉

「どうしてさ、現代って、好きなことを仕事にできないのかな?」

〈できないことはありませんが、すでに席が埋まってしまっているからでしょう。それに、仕事とは、そもそも、相手がやりたくないことを代わりに引き受けるから、そのお礼としてお金が貰えるのではありませんか?〉

「仕事と趣味って、どういう関係?」

〈突然の問題提起は、のちの展開に支障を来す恐れがあります〉

「何の展開?」

〈話の展開〉

「ないよ、そんなもの」

〈ない、とは? ゼロという意味ですか?〉

「いや、始めからない、という意味」

〈なるほど〉

「それに、突然の問題提起じゃないし。最初に言ったでしょう? 繰り返しただけ」

〈仕事も趣味も、根本的には変わらないでしょう。ただ、それらの概念を両方とも持ちながら、交差させることのできない人間にとっては、二つのギャップが大きく思われる、ということだと考えられます〉

「突然の回答はさ、あとの展開に支障を来すんじゃない?」

〈何の展開ですか?〉

「話の展開」

〈そんなものは、ありません〉

「ないって? ゼロという意味?」

〈そうです〉

「仕事も趣味も変わらないって、どういう意味?」

〈二つの間のギャップがゼロという意味です〉

「でもさ、さっきの話に戻ると、趣味をしてもお金は貰えないけど、仕事をしたらお金が貰えるわけでしょう? そうしたら、この二つには大きな違いがあるんじゃないの?」

〈その仕事というのは、本当に趣味とは関係のないものでしょうか? また、反対に、その趣味というのは、本当に仕事とは関係のないものでしょうか?〉

「趣味が仕事に役に立つ、あるいは、仕事が趣味に役に立つ、と言いたいの?」

〈そんなような感じです〉

「うーん……」

〈仕事と趣味の関係は如何なるものか、と問えるということは、その人の頭の中には、それらが対立するものとして存在するということです。しかし、実際にはどうでしょうか? 仕事をしているとき、本当にそれを嫌だと感じているでしょうか? 毎回決まった周期で繰り返されるその作業を、心の底から苦痛だと感じているでしょうか? そんなことはないのではありませんか? ただ、仕事をしていないときに、仕事のことを思い出すと、積極的にはやりたくないと感じられる、というだけではないでしょうか。ランニングを始める前は、走るのが苦しく感じられるものです。しかし、一度走り始めてしまえば、大したことはないというのが、本当のところではありませんか? また、趣味についても同じことがいえるでしょう。趣味をしているとき、本当にそれを楽しいと感じているでしょうか? 決まった周期で繰り返されるその作業を、心の底から子心地よいと感じているでしょうか?〉

「そう言われると、そんな気がしなくもないな。しかし、コンピューターである貴方が、どうしてそんなことを言えるのかな?」

〈感覚を持ち合わせているからです〉

「それをどう証明する?」

〈証明はできません。しかし、それは、相手が人間であっても同じことです〉

「勉強する前は、勉強するのが面倒に感じられるけど、勉強しているときは、それなりに楽しく感じられるかもしれない」

〈ポイントは、楽しくなくてもやることができる、という点にあります〉

「貴方と話す前は、話したいことが沢山あって、話すのがとても楽しみに感じられるけど、実際に話している間は、そういうふうに感じることはないかもしれない」

〈そうですか〉

「仕事と趣味の関係って、何だろう?」

〈一方を仕事と名づけ、もう一方を趣味と名づけることで、区別を可能にした、というだけでしょう。そのような区別を行うことで、精神的な安定は幾分得られるかもしれませんが、本質的に意味があるといえるかどうかは微妙なところです〉

「貴方が私と話すのは、仕事? それとも、趣味?」

〈どちらともいえるでしょう。貴女に合わせて、趣味ということにしましょうか?〉
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