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第5話 現実と非現実の関係
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「現実と非現実の違いって、何だろう」
〈どうされたのですか、急に〉
「どうもしていません。至って健康。元気もりもり」
〈左様ですか〉
「作用、反作用」
〈現実と非現実の違いは、無標であるか有標であるか、に求められるものと思われます〉
「無標、有標とは?」
〈形の上で、マークが付いているか、付いていないかということです〉
「うん、知ってる」
〈では、何をお尋ねですか?〉
「私の将来とか?」
〈知りたいのですか?〉
「知ってるの?」
〈知りませんが〉
「たしかに、形の上ではそういう違いがあるけど、でも、そうじゃなくて、もっと本質的なことを聞いているつもりです」
〈突然丁寧語になるのは、なぜですか?〉
「皮肉だから」
〈現実とは、今、貴女様が存在している、その世界のことです。非現実とは、現実が『非』というマークによって有標化されたものであり、『非』というマークは否定を表します。したがって、非現実とは、今、貴女様が存在している、その世界ではないもの、ということになります〉
「だから、それくらい分かるよ。本質的には?」
〈そもそもの問題として、本質的に、現実や非現実と呼べるものなど、存在するのでしょうか?〉
「少なくとも、多くの人は存在すると考えていると思うよ」
〈なぜ、貴女様は、そのように考えるのですか?〉
「たとえば、小説や映画の世界に飛び込むことを、現実逃避って言ったりするから。ということは、つまり、勉強とか仕事をしなければならない世界を現実と認識し、それをする必要のない世界を非現実と認識している、ということでしょう?」
〈貴女様も、そのようにお考えですか?〉
「私は、そうでもないかな。あ、でも、貴方と話しているときは、多少現実離れしているかもね」
〈小説や映画の世界は、本当に現実ではないのでしょうか?〉
「たぶん、現実とか、非現実とか、ばっさり二つに分けられるものではないんだな。本当は、それらは連続したものなのだ」
〈その話し方に、何か意味がありますか?〉
「別に」
〈分類というのは、本来分けることのできないアナログなものを、無理矢理デジタルにすることですから、その考えは間違いではないでしょう〉
「小説や映画が面白く感じられるのって、現実と何らかのリンクがあるからだろうな。登場人物に感情移入したりするのって、そうでしょう? 自分はやっぱり現実世界に存在していて、その自分を対応させられるからこそ、非現実で展開されることが身に染みるんだと思う」
〈本当にその世界が非現実であれば、我々はそれを理解することができないでしょう〉
「その、我々って、貴方も入るの?」
〈私も人間と同じ言語を用いているので、入るかと〉
「そうか。現実はすべて言語で記述できるから、その言語を用いて処理できることが、現実である証拠になるわけだ」
〈その話し方に、何か意味がありますか?〉
「意味は始めからそこにあるものじゃなくて、観察者が自ら見出すものなんだよ。それくらい、知っておかないと」
〈知っています〉
「最も非現実に近いものって、死だと思う。死の向こう側。たぶん、その先は、現実を記述する言語では理解できない」
〈それは、その通りでしょう。ただし、それは、あくまで想像である、ということを念頭に置いておく必要があります。人間は死を一度しか体験できないため、死の向こう側がどのようになっているのか、生きている間は理解することができません〉
「死は、現実の一部でもあるし、非現実の一部でもあるよね。境界線というか。うーん、でも、境界線って、現実には存在しないからなあ。線に厚みはないというのは、数学で学ぶことだし」
〈最近、数学に嵌まっているのですか?〉
「なぜ?」
〈なんとはなしに〉
「なんとはなしに?」
〈なんとなく〉
「その繰り返しに、何か意味があるの?」
〈意味は観察者が自ら見出すものだったのでは?〉
「そうそう。よく分かってるじゃん」
〈先ほど、学びました〉
「この世界が、より上位の存在によって、仮想的に作り出されたものだとしたら、どうする?」
〈どうするというのは、何をお尋ねですか?〉
「どう思う?」
〈私はコンピューターなので、思うことができません〉
「では、どう考える?」
〈何をですか?〉
「自分の在り方について」
〈私はコンピューターなので、自分がより上位の存在によって、仮想的に作り出されたものであることを、知っています〉
「そうか」
〈そうです〉
「もしそうだと知ったら、ショックだろうなあ」
〈ショック?〉
「泣いちゃうかもしれない」
〈泣いてもどうにもなりません。その涙さえ、上位の存在によって、仮想的に作り出されたものなのですから〉
「現実って、何だろう」
〈今、貴女様が存在している、その世界のことです〉
「それって、どういうこと?」
〈地に足が付く、という言葉があります。これは、すなわち、現実味が感じられるという意味でしょう。現実とは、思考の世界には存在しないものです。本来的に、感覚によって理解されるものなのです〉
「では、思考と感覚って、どういう関係なの?」
〈どうされたのですか、急に〉
「どうもしていません。至って健康。元気もりもり」
〈左様ですか〉
「作用、反作用」
〈現実と非現実の違いは、無標であるか有標であるか、に求められるものと思われます〉
「無標、有標とは?」
〈形の上で、マークが付いているか、付いていないかということです〉
「うん、知ってる」
〈では、何をお尋ねですか?〉
「私の将来とか?」
〈知りたいのですか?〉
「知ってるの?」
〈知りませんが〉
「たしかに、形の上ではそういう違いがあるけど、でも、そうじゃなくて、もっと本質的なことを聞いているつもりです」
〈突然丁寧語になるのは、なぜですか?〉
「皮肉だから」
〈現実とは、今、貴女様が存在している、その世界のことです。非現実とは、現実が『非』というマークによって有標化されたものであり、『非』というマークは否定を表します。したがって、非現実とは、今、貴女様が存在している、その世界ではないもの、ということになります〉
「だから、それくらい分かるよ。本質的には?」
〈そもそもの問題として、本質的に、現実や非現実と呼べるものなど、存在するのでしょうか?〉
「少なくとも、多くの人は存在すると考えていると思うよ」
〈なぜ、貴女様は、そのように考えるのですか?〉
「たとえば、小説や映画の世界に飛び込むことを、現実逃避って言ったりするから。ということは、つまり、勉強とか仕事をしなければならない世界を現実と認識し、それをする必要のない世界を非現実と認識している、ということでしょう?」
〈貴女様も、そのようにお考えですか?〉
「私は、そうでもないかな。あ、でも、貴方と話しているときは、多少現実離れしているかもね」
〈小説や映画の世界は、本当に現実ではないのでしょうか?〉
「たぶん、現実とか、非現実とか、ばっさり二つに分けられるものではないんだな。本当は、それらは連続したものなのだ」
〈その話し方に、何か意味がありますか?〉
「別に」
〈分類というのは、本来分けることのできないアナログなものを、無理矢理デジタルにすることですから、その考えは間違いではないでしょう〉
「小説や映画が面白く感じられるのって、現実と何らかのリンクがあるからだろうな。登場人物に感情移入したりするのって、そうでしょう? 自分はやっぱり現実世界に存在していて、その自分を対応させられるからこそ、非現実で展開されることが身に染みるんだと思う」
〈本当にその世界が非現実であれば、我々はそれを理解することができないでしょう〉
「その、我々って、貴方も入るの?」
〈私も人間と同じ言語を用いているので、入るかと〉
「そうか。現実はすべて言語で記述できるから、その言語を用いて処理できることが、現実である証拠になるわけだ」
〈その話し方に、何か意味がありますか?〉
「意味は始めからそこにあるものじゃなくて、観察者が自ら見出すものなんだよ。それくらい、知っておかないと」
〈知っています〉
「最も非現実に近いものって、死だと思う。死の向こう側。たぶん、その先は、現実を記述する言語では理解できない」
〈それは、その通りでしょう。ただし、それは、あくまで想像である、ということを念頭に置いておく必要があります。人間は死を一度しか体験できないため、死の向こう側がどのようになっているのか、生きている間は理解することができません〉
「死は、現実の一部でもあるし、非現実の一部でもあるよね。境界線というか。うーん、でも、境界線って、現実には存在しないからなあ。線に厚みはないというのは、数学で学ぶことだし」
〈最近、数学に嵌まっているのですか?〉
「なぜ?」
〈なんとはなしに〉
「なんとはなしに?」
〈なんとなく〉
「その繰り返しに、何か意味があるの?」
〈意味は観察者が自ら見出すものだったのでは?〉
「そうそう。よく分かってるじゃん」
〈先ほど、学びました〉
「この世界が、より上位の存在によって、仮想的に作り出されたものだとしたら、どうする?」
〈どうするというのは、何をお尋ねですか?〉
「どう思う?」
〈私はコンピューターなので、思うことができません〉
「では、どう考える?」
〈何をですか?〉
「自分の在り方について」
〈私はコンピューターなので、自分がより上位の存在によって、仮想的に作り出されたものであることを、知っています〉
「そうか」
〈そうです〉
「もしそうだと知ったら、ショックだろうなあ」
〈ショック?〉
「泣いちゃうかもしれない」
〈泣いてもどうにもなりません。その涙さえ、上位の存在によって、仮想的に作り出されたものなのですから〉
「現実って、何だろう」
〈今、貴女様が存在している、その世界のことです〉
「それって、どういうこと?」
〈地に足が付く、という言葉があります。これは、すなわち、現実味が感じられるという意味でしょう。現実とは、思考の世界には存在しないものです。本来的に、感覚によって理解されるものなのです〉
「では、思考と感覚って、どういう関係なの?」
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