舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第1章

第6話 Only One

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 前日まで続いた生活関連のガイダンスに続いて、各授業でも、またそれぞれのガイダンスが行われた。高校では教科ごとに教員が違うから、異なる毛色の話が聞けるという点で、授業もそれなりに面白かった。

 昼食の時間になったが、月夜は何も食べるつもりはなかった。お腹は空かない。周囲ではちらほらと小規模なグループが形成されて、少人数で集まりながら皆ご飯を食べている。なんとなくそこにいるのが違うような気がして、立ち上がって図書室にでも行こうと思ったが、そんな彼女の前に女子生徒が一人やって来て、声をかけてきた。

「貴女も、一緒に食べない?」

 月夜が顔を上げると、女子生徒は後ろを指差しながら話していた。どうやら先にグループを作っていて、一人でいる月夜に声をかけてきたらしい。

「食べない」月夜は素直に答える。

 彼女のダイレクトな発言を聞いて、女子生徒は若干戸惑ったようだったが、すぐにもとの表情に戻って、再度月夜に言葉をかけた。

「貴女、名前は?」

「暗闇月夜」

「そっか……。……えっと、うん、じゃあ、また機会があったら、一緒に食べようね。あ、今度、お話もしよう」

「うん、機会があったら」

 月夜の返答を聞くと、女子生徒は足早に去っていった。

 彼女の後ろ姿を眺めながら、たぶん、もう自分に声をかけてくることはないだろう、と月夜は予想する。今までの経験に基づいて判断しただけで、論理的な根拠があるわけではなかったが、こうした社会的な場では、理屈よりも経験がものをいうことが多いように思えた。

 図書室は同じ一階にあって、だから階段の上り下りをせずに向かうことができた。入り口でスリッパに履き替え、金属で縁取られた軽いドアを開けて、室内に入る。左手に司書が座るカウンターがあって、彼女が小さく挨拶をしてくれた。正面にはテーブル席が向こうまで広がり、右手には個人で勉強するためのブースが並べられている。中心に寄ったそれらのスペースを囲むような形で、壁際に本棚が並んでいた。

 どこに何があるか分からなかったから、月夜はとりあえず室内を歩き回ることにした。本に囲まれているのは、良い気分ではある。少なくとも、人に囲まれているよりは良い。そんな比較が何の意味を成すのか分からなかったが、思いついた自分が面白いと彼女は思った。
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