舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
12 / 255
第2章

第12話 雑談

しおりを挟む
「今日は、どこかに行くの?」

 フィルを抱えてソファに座ったまま、月夜は彼に尋ねた。

「寒いからな」フィルは前を向いて答える。「今日は家にいるとするか」

「分かった」

「何が分かったんだ?」

「フィルの、今日一日の生活方針」

「俺が嘘を吐いている可能性は考えなくていいのか?」

「考えても、仕方がない、と思う」

「素直すぎるのも、自分の身を守るという意味では、あまりいいことではないぜ」

「どうして、自分の身を守る必要があるの?」

「そりゃあ、死にたくないからだろう」

「死ぬ前の段階として、身体的、あるいは、精神的に傷つくというのも、その中に含まれる?」

「それはそうだろう。そうした過程を経て死ぬんだからな」

「自分が死んだら困ったことになる、とフィルは考えているの?」

「その場合の、自分とは俺のことか? それとも一般的な自己のことか?」

「後者」

「なら、そうだろうな」

「フィルは?」

「俺はそもそも生きてなんていない。故に、何が起きても問題はない」

「でも、省エネルギーで済むようにしているじゃない?」

「そうか?」

「うん」

「それはお前も同じじゃないか?」

「私は、生きているから」月夜は応じる。「もともと、省エネルギーで済むように、という思考回路が構築されている」

「まあ、いいさ。いずれにしろ、周囲への警戒は怠らない方がいい、とだけ言っておこう」

 月夜はフィルを見つめる。それから口を開いて、簡潔に返事を口にした。

「分かった」

 フィルを家に残して、月夜は学校に向かった。昨日と同じ時間に家を出て、昨日と同じ時間にバスに乗り、昨日と同じスケジュールで授業を受ける。ただ、昨日と同じ時間に帰ってくるかは分からない。夜になると彼女の生活は幾分気分に左右される。もちろん、日中にも彼女の気分は活きているが、それを適用できる場面は少ない。

 公園の傍を通ると、相変わらず桜は咲いていて、でも、日に日に枝に付いている花弁は少なくなりつつあった。あと数日もすれば完全に散ってしまうかもしれない。

 桜は、散ってしまうからこそ綺麗だ、という内容の詩か何かを、国語の授業で読んだことを思い出した。

 人間もそうだろうか?

 死ぬから、今を一生懸命生きよう、と思うのだろうか?

 たぶんそうだろう。人間のあらゆる営みの根底には、必ず死という絶対的終焉が存在する。けれど、生きている者はそれに気がついていない。

 そして、自分も、頭で理解しているだけで、本当の意味では分かっていないのだと、月夜はふと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...