舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第2章

第18話 運動開始点

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 雨がやんだ。

 この近辺にいる人々が、やめ、やめ、と念じた結果、雨がやんだのだとしたら、人間は魔法か何かを持っている、といった話を展開することもできるかもしれないが、きっとそういうわけではないだろう、となんとなく月夜は思考する。いや、けれど、でも……、そういうわけではないだろう、と推量できてしまうのは、なぜか。それは、自分が現代に生きる、科学を信奉している人間だからではないか?

「魔法なんてないさ」

 某童謡の歌詞を口ずさむような感じで、フィルが言った。

「フィルがいれば、私も魔法使いみたいに見えるかな?」

「いいね」フィルは口を鳴らす。「キュートだ」

 学校を出て、家への道を歩いている最中だった。この時間帯になれば、当然バスは走っていないので、歩いて帰る以外に方法はない。数日前から明らかになっていたことだが、夜になっても学校は施錠されていなかった。正確には、校門は開いていなかったが、その隣にある小さなドアは開いていた。もっと正確に言えば、月夜が出ようとしたときだけ開いたといえるかもしれない。

 真実は分からなかった。

 踏切の前の道を進む。バーは今は垂直になっていて、ランプも光らず、音も聞こえなかった。

 静かな夜だ。

「月夜は、空港が好きか?」

 尋ねられて、月夜はフィルを見る。フィルは、雨の中歩いてきた弊害か、疲れたと言って、今も彼女の腕の中に収まっていた。

「空港?」

「空港に、言ったことはあるか?」

「あるような、ないような」

「俺は、夜の空港に光る、鈍い色のランプが好きだ」

「空港というよりは、滑走路?」

「ああ、そう」

 フィルが言っている情景を、月夜は頭の中に思い描く。思い描けはしたが、夜の滑走路が本当にそういう姿をしているのか、彼女には分からなかった。

「想像と、現実。どちらも奇怪で、どちらも捨てがたい」フィルが魔法を口にするように言う。

「どちらとも、捨てる必要はないのでは?」

 月夜の返答を聞いて、フィルはくくくと不気味に笑った。月夜も釣られて笑いそうになったが、頑張って抑えた。

「そうかもな」フィルは呟く。「……きっと、そういうのが、現実にうんざりしている証拠なんだろう」

 高架下を潜る。

 目の前にバスロータリー。

 遥か向こうまで続くモノレールの線路。

「さあて、それじゃあ、そろそろ、俺も運動をするか」

 そう言うと、フィルは勢い良く月夜の腕の中から飛び出した。地に足をつけ、顔を上げて彼女を見る。

「どうぞ、お好きに」月夜は応えた。
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