舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第3章

第22話 外部通信

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 ソファに腰かけて、真昼はコーヒーを飲んでいる。月夜はその隣に座って、彼をじっと見つめていた。彼女の鋭利な瞳で見られても、真昼はまったく動じない。まるでこれから謎解きを始める探偵のように、いたって安定した落ち着きを維持している。

 フィルは月夜の足もとをうろちょろしていた。彼も真昼のことは知っている。ただ、月夜は二人の関係がどの程度なのか知らない。それなりに気が合いそうではあるが、仲良く話しているところは見たことがなかった。

「最近は、どうだった?」

 持っていたカップを目の前の机に戻して、真昼が月夜に問うた。

「どうって、何が?」

「何も不思議なことは起こらなかった?」

「不思議なこと?」

「あっとびっくりするような、仰天驚きな出来事」

「びっくり仰天するような、あっと驚く出来事、じゃなくて?」

「そういうの、なかった?」

「高校に入学した」月夜は簡潔に述べた。「中学とあまり変わらなくて、多少驚いた」

 月夜の返答を聞いて、真昼はけたけたと笑った。彼は見た目がどこか貧弱そうで、節々の繋がりが弱い作り物の人形のような動きをする。

「それは、ビッグニュースだね。受験、頑張ったのかな? お疲れ様」

「特に頑張ってはいないし、疲れてもいない」

「ま、そうだろうけど」

 真昼はソファから立ち上がり、月夜の部屋の中を歩き始める。とはいっても、彼女は一人暮らしだし、歩き回って新しい発見ができるほど、部屋の中は広くない。

 月夜には、真昼が今どういう生活をしているのか、推測することができなかった。同い年くらいには見えるが、彼が自分と同じように高校に通っているのかすら分からない。そして、彼に家族がいるのかも不明だった。真昼は、世紀という単位が千年に一度訪れるかのように、あるタイミングで突然彼女の前に姿を現す。でも、本当にいきなり現れるのではなく、ときどき携帯電話にメッセージを送ってくれた。

「暫く、ここにいさせてよ」部屋の中央で振り返って、真昼が言った。「まだ、少し寒いから」

「外で過ごしているの?」

「いや、うーん、なんて言ったらいいかなあ……。うん、僕はね、そういうのの適用範囲外にいるからさ」

「適用範囲外?」

「ま、お察しの通り、ということで」

 暫く考えてみたが、月夜は何も察することができなかった。そして、察すると、考えるというのは、果たして同じだろうか、と疑問に思った。
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