舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
21 / 255
第3章

第21話 反対

しおりを挟む
 休日の朝、月夜が自室で本を読んでいると、階下でインターフォンのチャイムが鳴った。

 月夜は、基本的に休日も平日と同じようなサイクルで動く。サイクルというのは、生活を構成する最低限の枠組みについて適用できるもので、学校に行く平日と同じように、朝から夕方まで勉強したりはしない。ただし、まったく勉強しないということもなかった。その週の復習くらいはする。

 フィルがまだ眠っていたから、次のチャイムが鳴る前に、月夜は階段を下りて玄関に向かった。

 朝の冷たい階段。

 玄関の二段構えの鍵を解錠して、月夜はドアを開ける。

 最初、誰もいないと思ったが、暫くすると、ドアの陰から小柄な少年が姿を現した。彼は月夜の前に立って不敵な笑みを浮かべると、少しだけ首を傾げた姿勢で固まった。

「おはよう」

 月夜が挨拶をしても、彼は何も答えなかった。代わりに、月夜の方へそっと近寄ると、そのまま背後に手を回して、彼女を正面から抱き締めた。

「何?」

 抱き締められたまま、少しだけ顔を後ろを向けて、月夜は尋ねる。

 髪の接触。

 摩擦。

「いや、別に」少年は答えた。「久し振り」

「久し振り、の基準は?」

 月夜がそう尋ねると、少年はもとの姿勢に戻って、また正面から彼女を見据える。

「元気そうでよかったよ」

「元気、とは?」

 少年をリビングに招いて、月夜はキッチンでコーヒーを淹れた。手で淹れることはしない。メーカーのドリッパーに粉をセットして、自動で注がれるのを待つだけだ。

 なんとなく、リビングに戻らないで、コーヒーが入るのをその場で待つ。

 月夜の家に訪ねてきた少年は、真昼という名の知り合いだった。彼は、彼女の知り合いで、けれど、いつから知り合っているのか、月夜は覚えていない。それだけではなかった。月夜は真昼がどういった存在なのか、まったくといって良いほど把握していない。もちろん、自分との関係性については理解している。そうではなく、世間一般、社会一般の中での彼の位置づけというものを、月夜は知らなかった。

 真昼には不明なところが色々ある。もしかすると、それは月夜も同じかもしれないが、それ以上に分からないところが多い。でも、彼は月夜の数少ない知り合いで、そして、フィルと同様に親しい間柄だった。

 いや、それも違うか……。

 親しい間柄、ではない。

 その表現は間違えている。

 では、どのように正すべきか?

 数秒間考えてみたが、適切な表現は思いつかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...