舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第3章

第24話 仮定形:触れば

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 真昼と一緒に家の外に出た。何をするわけでもない。単調に、周囲を歩き回る、つまり、散歩と呼ばれる行為を、二人でやってみよう、という話になった。

「うわあ、寒いなあ」ドアの外に出るなり、真昼が呟いた。「極寒だ。うーん、非常に寒い」

 真昼は今はジャケットを羽織っている。頭にはニット帽を被っていた。どこから取り出したのか分からない。もしかすると、彼が存在する次元は異なっていて、たまたま、彼の次元と、自分の次元が、何らかの要因でリンクしたから、こうして彼の姿を見ることができているのかもしれない、と月夜は考えたほどだ。

「そんなに、寒い、と言うほどではないと思うけど」月夜は指摘する。

「僕の感想だからね……」手袋を嵌めた手を擦り合わせながら、真昼は言った。「うん、君には伝わらないだろうね」

 玄関のドアを閉めて、三人は歩き始めた。三人というのは、月夜と真昼のほかにフィルがいるからだ。猫の数を数えるとき、普通は単位に「人」は使わないが、ほかの二人が明らかに人、もしくは人の形をしているから、多数決でそちらに合わせられることになった、という論を展開することはできるだろうか。

 家の前を通る道を左に進んで、若干傾斜のある道路を歩く。歩道はない。ほとんど一本道に近く、本当にぎりぎり車が擦れ違うことができる程度しか幅はない。

 月夜が住むこの地域は、周囲が山に囲まれている。今は居住地となっているこの辺りも、もともとは一つの山だった。だから彼女の家は坂の上にあるし、先へと進むほど高度が高くなる。山を切り開いたために、形はそのままの状態で残されたのだ。完全に真っ平らにするという方針ではなかったらしい。

 フィルを片方の腕で抱きかかえて、もう片方の手で月夜は真昼と手を繋いだ。なんてことはない、人間同士の普通のコミュニケーションに思えた。現代では、人の身体は神聖なものとして扱われる嫌いがある。断りのない他者への接触が、そのまま犯罪に繋がることもあるらしい。

「人は、触れることでしか、自分と他者を分けられないのにね」

 歩きながら、真昼が呟いた。

「話すことでも、分けられるのでは?」月夜は意見を述べる。

「うん、でも、程度が全然違うよ」真昼は少し笑った。「触れば、感覚的に、ああ、自分と、ほかの人って、違うんだって分かるんだ」
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