舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第3章

第25話 ぐーんと上がるは右か左か

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 カーブする坂道を進み、左右を数々の住宅に挟まれながら、同時に上方向へも移動する。二次関数のグラフを想像。上に開く場合、両者がともに増加するのは、右半分だけだ。右と左で、増加のイメージ、減少のイメージという、固定化された印象はあるだろうか。この国で暮らす多くの人間は右手が利き手だが、右脳と左脳の接続と何か関係があるのだろうか。
 坂道を上り続けて、やがて平坦な道に辿り着いた。裏道から大通りへと出て、今度はその上を進んでいく。
 左手に開放的な景色が現れた。そこからはこの一帯をずっと向こうまで見渡せる。手前には傾斜のある芝生の大地が広がっていた。道路建設予定地として確保された土地だ。
「この中、入れないかな?」
 芝生の前にはフェンスが立てられていて、中には関係者以外立ち入れない。もちろん、真昼もそれを分かったうえで言っている。こういう場合に、どのような言葉を口にするのが適切なのか、月夜は瞬時に判断し兼ねた。
「怒られてもいいのなら、いいんじゃない?」
 月夜がそう言うと、真昼は彼女を真剣な瞳で見つめた。
「僕ね、人から怒られるのって、好きなんだ」
「どうして?」月夜は首を傾げる。
「感情をぶつけられるのって、生きているって感じがしてさ」
 大通りをさらに先へと進むと、間もなく公園に到着した。この辺りにはだいたい等間隔に公園が配置されている。それだけ一つのコミュニティーが広いということかもしれない。あるいは、いくつものコミュニティーが隣接して存在しているとも捉えられるか。
 やはり、この公園にも、月夜の家のすぐ傍にあるものと同じで、敷地内に山があった。そして、こちらの方は、地域一帯を取り囲む山の一部だ。
 時間が時間だからか、公園には誰もいなかった。正方形のタイルが縦に二列並んだ道を歩く。右手には草地。正面には煉瓦状のタイルが敷き詰められたコーナー。そしてその先には中規模なグラウンドが広がっていた。
 グラウンドの手前にあるコーナーで、二人は並んでベンチに腰を下ろした。黒色のアーチのようなものが頭上を覆っていたが、骨組みのままで、顔を上げれば空が見えた。
「うーん、非常に気持ちのいい朝だ」伸びをしながら真昼が言った。「こんな清浄な空気を肺に取り込んだのは、久し振りだ」
「真昼は、清浄な空気じゃないと、動かない?」
「うん、そうね」彼は頷いてみせる。「ほら、僕って、高級品だから」
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