舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第4章

第32話 have to

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「君の話をしよう」唐突に真昼が言った。「僕は色々なものから逸脱しているけど……。君はそういうレベルの存在ではない。ルールの適用を受け、それに従うものとして機能している。それは自分でも分かっているよね?」

 真昼の話に耳を傾けていたが、急展開すぎたため、月夜は首を傾げることしかできなかった。

「よく、分からない」

「まあいい。今は黙って聞いていてくれれば」

 真昼はソファから立ち上がり、また室内をふらふらと歩き回る。大学の教授などで、歩きながらでないと講義ができない者がいるらしいが、それと同じ理由かもしれない。

「君には成すべきことがある」真昼は説明した。「それが具体的にどういうものなのかは、まだ述べられる段階ではないけど、ともかく、君には明確な存在理由があるんだ。この点は、ほかの人間とは少し違う。彼らは発生の前段階にそのための理由を得ているわけではない。彼らにも、生まれてからなら、なるほど、自分はこのために生まれてきたんだなと思う瞬間は、あるかもしれないけどね」

「どうして、そんなことがいえるの?」話の途中だったが、タイミングを見て月夜は真昼に質問した。

「どうして、という問いには答えられないよ」真昼は彼女を見て笑う。「僕がそれを知っているからとしかいえない」

 月夜はとりあえず頷いておいた。

「まあ、そんなふうに、君には目標のようなものがある。だからそのために生きなければならない。もちろん、日頃からそんなふうに思っている必要はないけどね。とりあえず、ああ、そんなものなんだなあ、ということが分かっていれば、それでいい」

「それは、私じゃないと、できないこと?」

「君じゃなくてもできる。けれど、君がすることになった。生み出されたのが君だからだ」

「本当に、私にできる?」

「そのために生み出されたんだから、できるはず」

 月夜はソファに座ったまま考える。

 真昼の話が本当なのか嘘なのか、そして、なぜ今そんなことを自分に告げるのか、分からないことは多々あったが、今はそうした問題は保留しておいて、彼の言う、自分が成すべきこととというのは、どういうものだろうということについて、少し思考を巡らせた。

 自分の今までの生活を振り返っても、何かの、ため、にしたことは、ほとんどない。

 言い換えれば、すべて自分のためだ。

 エゴで生きてきたといっても良い。

 自分が成すべきこと……。

 できなかったらどうしよう、とは思わなかった。

 ただ、できた方が良いな、とは思った。
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