舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
47 / 255
第5章

第47話 自然発生

しおりを挟む
 放課後になって、月夜は珍しく外に出た。教室に鞄は置いたままで、少し散歩をするつもりだった。空はよく晴れている。けれどまだ春なので少し肌寒い。

 午後になると、少しだけ頭がぼんやりしてくることがあった。ぼんやりしているなと感じるというだけで、どの程度ぼんやりしているのか、いつと比べてぼんやりしているのかということについて、彼女は具体的な見解を持たない。たぶん、その感覚は、何かを好きと感じるのと同じだ。好きという気持ちは、何かと比較して好きだという形で生じるのではない。何かを見たときに、唐突に、あ、好きだな、と感じるのだ。それは絶対的な感覚で、その世界にはそれしか存在しない。

 校舎には人気がなくなっていた。上履きのまま昇降口の階段に出て、人通りがなかったからそのままそこに腰を下ろした。目の前にある小さな池の所で、白衣を身につけた教員と、数人の生徒が何やら作業をしている。右手から運動部の生徒たちが走ってきて、そのまま校舎の向こうに回り込んで消えていった。一分ほど経てばまた戻ってくるに違いない。彼らは電子のようにぐるぐると同じ場所を回るのが好きだ。もっとも、電子には好きだという感情はないだろうが。

 学校は、社会から隔離されているだろうか、となんとなく考える。

 色々なものから保護されているという意味では、その通りだろうと月夜は思った。少なくとも、この敷地の内側にいる限り、様々な責任が緩和される仕組みになっている。敷地外でとった行動は、すべて自分一人の責任として処理されるが、この敷地内でとった行動であれば、個人ではなく、一生徒の責任になる。そして、生徒という性質が与えられている以上、それを管理する立場の者が存在する。

 社会は、いくつもの小さな社会で構成されている。そして、その範囲を広げていくと、今度は国という単位に変わる。つまり、国も社会だ。では、国がいくつも集まった、世界、あるいは地球という単位は、一つの社会として理解できるだろうか。また、もっとその範囲を拡大させて、太陽系をそのように捉えることはできるだろうか。

 してどうなるのだろうという気がした。

 結局は、人の作り出す概念だから、どうとでも捉えられる。

 けれど、どうとでも捉えられるということは、どうでも良いということを意味しない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...