舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第5章

第46話 ルールの施行より内容の理解を

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 高校の授業では、色々な科目が取り扱われる。けれど、本当は中学生の頃、いや、小学生の頃から中身は変わっていないかもしれない。あくまで呼び方が変わっているだけで、学ぶことはどれも人間の歴史、あるいはそうした歴史を経て得られた知見でしかない。でしかないという言い方は如何なものかと、月夜は考えて自分で思った。それ以外に何を学ぶというのだろう。人間は人間の視点から逃れられないというのに。

 果たして、自分は人間だろうか?

 ……また、同じことを考える。

 授業は法律に関するものだったが、まずは法律というものの概略が述べられているだけで、具体的なその内容については、今後一つずつ紐解いていくみたいだった。この国の住民は、自分たちの国の法律のことを知らない、とよく揶揄されるが、知らなくても当然ではないか、と月夜は思う。なぜなら、書かれ方があまりにも厳かで、読むために相当な苦労を強いられるからだ。人間はエコな生き物なので、苦労をするようなことをわざわざしたいと思わない。これは自明なことだ。そして、知らなくても充分に生きていけるとなれば、知らなくても良いという判断が成されるというのは、全然不自然なことではない。

 普通に、分かるような言葉で書き直せば良いのではないだろうか。もちろん、法律には歴史があるから、それを保守したい人間もいるのだろうが、原本とは別に、現代用に分かりやすく書き下ろしたものを用意すれば良い。けれど、そうすると、今度は文章の解釈の問題が生じて、やはり正確に書かれたものでないと駄目だ、と言う者が出てくる。しかし、法律がどういうものかということを知るうえで、いきなりそんなに細かいところまで理解しようとする必要が、果たしてあるだろうかと彼女は思う。大雑把でも良いから、とりあえず内容が分かれば良いのではないか。細かい解釈まで問題に含めることは、根幹を理解することと同等に重要なことなのだろうか。

 そんなことを考えている内に、授業は終わってしまった。教師の言っていることはきちんとノートにメモをしてあるが、なるほど、当たり前だな、ということしか書かれていなかった。当たり前のことを敢えてノートに書くという行為は、しかし決して無駄なことではない。そこでは情報の整理が行われている。そして、勉強や学問というものは、情報を得る、あるいは生み出す行為なのだから、感覚的なものを言語化する行為は、むしろその根本的な部分に触れる行いだといえる。

 月夜はノートを仕舞い、次の授業の準備をする。
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