舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第5章

第45話 画策された偶然

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 ずっと眼下を見下ろしていると、その先に引き込まれそうになる。身体ごと柵の向こうに投げ出して、地面へと落下していく様が目に浮かぶ。顔を上に向けても同じことだ。わけもなく青い空に向かって、自分の身体が吸い込まれそうになるような感覚を覚える。

 昔は、地球の大地は平面で、宇宙の中心にあり、その周りを太陽や月が回っている、といった説が有力だったらしい。もし本当にそうだったら、物事を理解するのがどれほど楽だっただろう。地球が宇宙のどこにあるのか分からないよりも、とりあえず、中心にあるといった絶対的な指標が分かっていれば、宇宙のメカニズムを理解するのも、今よりずっと簡単だったに違いない。

 合理的に考えて得られた結果は、人間にとって必ずしも喜ばしいものだとは限らない。むしろその逆の方が多いようにさえ思える。いや、そこには喜ばしさも、真実を知った絶望も存在しないというのが本当のところだろう。感情を抱くのは人間だけだ。宇宙に感情はない。それはルールに則って忠実に動いている。

 予鈴が鳴って、月夜は来た道を引き返した。この時間に特有な、騒がしくも、完全に静かなわけでもない空気が、校舎中に漂っている。

 教室の中はまだ騒がしいままだった。教師は来ていない。月夜は自分の席に座って、次の科目で使う教材を用意して準備を整えた。

 窓の外を見る。

 なんとなく小夜のことを思い出した。

 自分は、近い内に物の怪と接触することになるらしい。なんでも、それは自分のことを排除しようとしているみたいだ。そして、それから自分の身を守らなくてはならない。

 自分の身を守るという行為には、相手へ危害を加えるということまで意識されているだろうか、と思考。おそらく言葉のレベルでは意識されていない。だが、現実的に考えれば、そうならざるをえないことにすぐに気がつくはずだ。これは法律に関する話を聞くときに抱く感覚と同じように思えた。法律には、そのこと、しか書かれていない。そのことをしたあと、では、その空間的な周囲、または時間的な未来に、どのような影響を及ぼすのかということについては、触れられていないのではないか。

 教室の扉がスライドし、教師が室内に入ってくる。彼は荷物を教壇の上に置くと、宣言するように高らかな声を出した。

「皆さんこんにちは。今日は法律の授業です」
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