舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第5章

第44話 動的思考

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 また学校が始まった。

 一週間という単位を、月夜はあまり意識する方ではない。けれど、休日と平日のギャップは認識されるので、新しい週が始まることも認識されることになる。ただし、それもあくまで始まりを意識するというだけで、週の全体像が頭に思い浮かぶわけではない。特別な予定が入ることなどほとんどないし、その日その日を生きていれば、自然と一週間は終わっている。

 高校の授業は、中学のものと大して変わらなかった。基本的には教師が一方的に話して、それを聞きながらノートをとる形式だ。ときどき指名されることもあるが、そのときには、口を開いて自分の考えを述べれば良い。ときどき、間違えたら嫌だと口にする生徒がいるが、間違えて嫌な気持ちをしない者などいない。教師もそれは分かっているだろう。ただ、学校とは勉強をするところであり、勉強は間違いを一つ一つ正していくことで進むのだから、間違えるという事象が生じるのは、いたって普通のことではある。

 そして、その日の授業でも、月夜は間違えた答えを口にした。けれど、まったく分からなかったからではない。理路整然と考えて、それでも間違えたのだ。だから、正しい考え方を教えてもらって、一歩前進した。

 前に進んだ先に、何があるのかは分からないが……。

 昼時になって、月夜は三階の渡り廊下に向かった。二階の渡り廊下は室内にあるが、こちらは外にある。頭の上に空が見えた。この時間帯は様々な場所に向かう生徒が色々といるから、廊下は常に混み合っている。月夜はその途中で立ち止まり、柵に寄りかかって眼下の中庭を眺めた。

 中庭には噴水がある。今も水が循環していた。

 動くものを一枚の絵に収めると、それは事実を反映したようには見えなくなる。けれど、噴水の場合はそうではない。今ある噴水の水の流れを絵に描いても、それは確かに事実を反映していると見なされる。これは、噴水の水の動きが一定で、一定であるが故に変わらないものだと認識されるからだ。

 学校での生活も似たようなものかもしれない、と月夜は思った。毎日は個別な一日だが、いつ、どこで切り取っても、それは学生生活には違いない。何の変化もない毎日。変化がないとは安定しているという意味だ。安定を求めるのは生物に共通の傾向に思えるが、一方で、変化を求めるのもまた共通の傾向に思える。

 自分は変化を求めているだろうか?

 自問する。

 楽しいことをしたくないわけではない。

 でも、楽しいという感情は、先取りして得るべきものでもないだろう。
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