舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
43 / 255
第5章

第43話 3 people

しおりを挟む
 暫くすると、小夜は立ち上がって、辺りをうろちょろし始めた。うろちょろというのは、なかなか滑稽な表現だが、しかし、その行動を目にして、まず最初にうろちょろというフレーズが思いついたから、月夜は小夜はうろちょろしているのだと捉えた。

 小夜にとっては、この辺りは珍しいのかもしれない。彼女がいつもどんな所にいるのか、月夜は知らない。呼び出すというか、用事があってここへ来ると、彼女は社の中から現れる。ときどき月夜が来る前に外に出ていることもあるが、それでも社の向こう側が彼女の住む場所には違いない。そちらの方で過ごす時間の方が多いはずだ。

「フィルとは、上手くやっていますか?」

 木の周りを歩き回りながら、小夜が月夜に尋ねてくる。

「うん」月夜は頷いた。「特に大きな問題はない、と考えている」

「そうですか。それならよかったです」

「小夜は、フィルがいなくて、大丈夫なの?」

「ええ、問題ありません」小夜は話す。「私の仕事は、私一人でも充分成し遂げられるものです。それに、私とフィルにとっては、物理的な距離は関係ありません。見えるか、見えないかくらいの違いでしかありません」

「何かで、繋がっているから?」

「それが、心だったら、いいかもしれませんね」そう言って、小夜は少し笑った。目が細くなる典型的な笑顔だ。

「それは、俺には人を思う心すらない、という意味か?」月夜の膝の上に座っていたフィルが、徐に顔を上げて小夜に向かって言う。

「曲解だよ」小夜は彼を見る。

「まあ、仕事はお前一人でも充分こなせるだろう」フィルは話した。「もともと、俺がやりたくて始めたことじゃないからな。やりたい内は、やっているがいいさ」

「ええ、そのつもり」小夜は月夜の方に近づき、しゃがみ込んでフィルをそっと抱きかかえた。「それまで、月夜をよろしくね」

 いつものことだったが、フィルは何も応えなかった。人は、質問に対して回答がなければ肯定と捉えるらしいが、それが本当なのか月夜には分からない。そもそもフィルは人ではないから、人と同じルールが適用できるのか、というところから始めなくてはならないが、人語を話している以上、彼にも同様の理論体系が備わっているものと見て大方間違いないだろう。

 物の怪は生き物だろうか?

 ふと、月夜は疑問を抱く。

 フィルは物の怪だ。

 自分は、彼を自分と同じような存在だと認識している。

 小夜は物の怪を殺せと言った。

 果たして、自分にそんなことができるのだろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...