舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第6章

第54話 波のある思考

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 図書室の中はいたって静かだった。日中のように、わけもなく冷暖房の類が点いていることもない。ただ、窓も開いていないから、かき氷にひじきの煮汁をかけたような空気がまだそこに残っていた。

 一定の規則によって分類された表記に従って、小説ではなく、月夜は学術書が並べられてあるコーナーへと向かった。以前は人文科学の分野の本を読んだので、今度は数理科学に該当する書物がある方へ行った。

 なんとなく、微分と積分に関する新書を手に取って、開いてみる。

 微分と積分に関して、月夜は何も知らなかった。高校生だから、その内授業で取り扱われるだろうと予想している。本にはよく分からない曲線がいくつか描かれていて、それが微分のグラフだと説明されていた。微分と積分は逆の関係にあるらしい。世間ではまるで諺のように「微分積分」と繋げて発音されることが多いから、大方そんなところだろうと思っていたので、この点では彼女の予想は的中した。なんてことはない、誰でもできるような平凡な予想だ。特に何の感慨も湧かない。

 一見すると、微分のグラフは波を表しているように見える。マイクロスコープに出力した音の波形と同じだ。そして、実際のところ、微分とはそういう性質を持っているようだった。すなわち、どこかに向かって離散的に広がるのではなく、一定の規則を持って数字がある一定の幅の中で増減するらしい。

 波とは何だろう、と月夜は考える。

 一般的に、波と言われると移動を伴う動きのように思えるが、実際のところはそうではない。それは単なる上下運動にすぎない。水の表面に向かって水滴を垂らせば波が生じるが、その波というのは、ある区間に大して相対的に位置が高い部分と、低い部分を持つ同心円の連なりでしかない。つまり、高い所、低い所、高い所、低い所……、と続くことで、それが動いているように見える。いや、見えるという言い方はおかしいかもしれない。実際にそれは動きには間違いないのだから……。

 自分にも波があるかもしれない、と思考が飛躍。

 何に関する波かは分からないが、高い部分と、低い部分を、行ったり来たりしているような感覚はある。そして、そのどちらが良いともいえない。高い部分は低い部分があるから高いのであり、また逆に、低い部分は高い部分があるから低いのだ。

「テストの点数もそんな感じかな」

 フィルがにやにやしながらコメントを発したが、月夜は本を読んでいたので、何も反応しなかった。
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