舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第6章

第55話 閉め忘れ、開け遂行

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 食堂に向かった。

 図書室の鍵が開いていたから、もしかするとそちらも開いているかもしれない、と思って向かったのだが、予想していた通り、やはり食堂の扉も何の抵抗もなく開けることができた。

 開いているのが図書室だけなら、教員が施錠し忘れたのかもしれない、で済ますことができるが、食堂もとなるとそうはいかない。もしかすると、図書室を施錠する係と、食堂を施錠する係が同じなのかもしれないが、毎日の習慣になっていることを、そう忘れるものだろうか。今は新学期になったばかりだから、係の者が変わったということも考えられなくはないが……。

 食堂は相変わらず広大で、そして、食堂らしかった。食堂と似たような場所は、食堂のほかにはないのではないか。図書室に似た場所はほかにもある。市民センターや役所の類に行けば、同様の雰囲気を感じとれるだろう。

 月夜の腕からいとも容易く抜け出して、フィルは机の上に飛び乗った。そのまま振り返って彼は月夜を見る。

「月夜は、ここで食事をしたことがあるのか?」

 彼に問われ、月夜は答えた。

「まだ、学校で食事をしたことがない」

 立ったまま、月夜はなんとなく机の表面に触れる。最初は人差し指だけで。そして、徐々に接する指の数を多くしていき、やがて掌全体で。

 冷たかった。

「今のところ、学校の中にそれらしい空気は感じられないな」行儀良く机の上に座ったままフィルが言った。

「それらしいというのは、物の怪らしいということ?」月夜は尋ねる。

「そう」

「物の怪からは、空気のようなものが感じられるの? この場合の空気というのは、物理的なものではなくて、人間が感じる、気配のようなもののことだけど」

「俺は物の怪だから、同じ物の怪同士、気配を感じることができる、ということになるんだろうな」

「でも、フィルは、私の気配も感じられるのでは?」

「そうだな……。そうすると、考えられる可能性は三つある。一つは、物の怪の方が人間よりも上位であるということ。もう一つは、月夜も物の怪だということ。そして、月夜か俺のどちらかが特別なケースであるということ」

「どれも、ありえそう」月夜は意見を述べた。「私も、フィルも、変わっているみたいだから、どちらかといえば、最後の可能性が一番高いかも」
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