舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第7章

第67話 interesting

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 ニンジンとジャガイモとタマネギを持って、月夜は家に帰った。途中でジャガイモが一つ袋の中から飛び出して、坂道だったが故にそれを追いかけるはめになったが、奇跡的な出会いなど起こるわけでもなく、側溝に落ちるのを辛うじて阻止することができた。

 側溝に落ちそうになったのを止めてくれたのは、フィルだ。こうした局面では、二足歩行の動物よりも四足歩行の動物の方が素早く動くことができる。そして安定性も高い。人間は前脚を腕として用いることで、道具を使うことができるようになったが、それは当然メリットだけを齎したのではない。

「どうせなら、ニンジンと追いかけっこしたかったな」

 坂道を上る途中でフィルが言った。

「ニンジンは、転がりにくいのでは?」

「それがいいんじゃないか」フィルは説明する。「ジャガイモやタマネギみたいに、如何にも転がりそうなものと追いかけっこしても楽しくないさ。それっぽいものではなく、それっぽくないものが、それっぽい動きをするから面白いんじゃないか」

「楽しいと、面白いは、同じ?」

「それは、今の話の中で重要なことか?」

「フィルにとっては、どうだか分からないけど、少なくとも、私にとってはそう」

「俺の場合、面白いの中に楽しいが含まれているからな」フィルは月夜の質問に答えた。「それだけじゃない。ほかにも色々入っている。それを一纏めにして面白いと言うんだ」

「じゃあ、面白いというのは、楽しいということでもあり、悲しいということでもあるの?」

「いや、それらが単体として効力を発揮するんじゃない。それなら、初めからそれら一つ一つを扱えばいいんだ。そうではなく、融合されているんだ。面白いという感情は、楽しいや悲しい、嬉しいや寂しいがすべて混ざり合った、黒に近い色をしているのさ」

「なるほど」月夜は頷く。

「お前の場合は、どうなんだ?」

「まだ、分析をしていないから分からない」

「じゃあ、分析を済ませたら、聞かせてくれよ」

「うん」彼女は応えた。「でも、今の話は面白いよ」

 家に帰って来てもまだ午前中だった。一日は半分以上残されている。ただし、月夜のスケジュールはすでに決まっていた。たぶん、いつもと同じように本を読んで過ごす。今は神経科学に関する本を読んでいた。まだ始まったばかりで、この先の展開は分からない。

「新書を物語みたいに扱うなよ」フィルが言った。

「私たちは、新書? それとも物語?」
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