舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第7章

第68話 自己と他者の狭間

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 新書が新書として扱われるのは、装丁が如何にも新書らしく、サイズが新書のそれだからだ。そして、文庫が文庫として扱われるのも同様の理由だ。つまり、そこには外見という共通性があるだけで、内容にまで共通性があるわけではない。けれど、どういうわけか、文庫を読んでいる者よりも、新書を読んでいる者の方が理知的に見える、という人が多いみたいだ。統計をとったわけではないので、具体的なデータは存在しないが、少なくとも、月夜にはそのような傾向があるように思えた。実際にそう言われたことがあるからだ。

「本を読んでいるだけで、充分理知的だがな」

 月夜と一緒にソファの上で丸まった姿勢で、フィルが言った。

「うーん、そうかな」月夜は応じる。「ゲームをしている人も、理知的に見える気がするけど」

「おいおい、冗談だろう? あんなの、機械に示された通りに、反応を返しているだけじゃないか」

「でも、瞬時に反応を返せるのは、それなりの知能があるからでは? 読書は、単なるインプットだから、そこまで高度な知能がなくてもできるかもしれない」

「単なるインプットじゃないさ。きちんと咀嚼して、理解するのが読書だろう?」

「この国に、そうやって本と向き合っている人が、果たしてどれくらいいるだろうか」

 月夜がそう言うと、フィルは可笑しそうに笑った。口の中で金平糖を転がしたような響きだった。

「辛辣な言葉だな」

「純粋な疑問として言った」

 月夜は一度身体を起こし、目の前にあるテーブルからコーヒーの入ったカップを取る。食べる行為に比べれば、飲む行為は月夜は日常的にする傾向にあった。

「まあ、でも、読書家たちは、本を読んだ文字数とか、冊数を口にしたがるからな」フィルが話を続けた。「数字という、具体的な指標だから、ほかの者と比べやすいんだろう。それに比べて、理解の度合いはそう簡単には計れない。しかし人間は、相手がどの程度理解しているかということを、感覚的に把握するものだ。読書家の話を聞いても全然面白くないのは、そういうことも関係しているかもしれない。面白かったか、面白くなかったか、そのどちらかの感想を聞かされても、こちらとしてはどうでも良いからな」

「それは、フィルの見解?」カップを口から離して、月夜は彼に尋ねる。

「俺が口にしているんだから、当然だろう」

「じゃあ、私が代わりに口にしたら、私の見解になるの?」

「そういうのは、伝聞というんだ」
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