舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
68 / 255
第7章

第68話 自己と他者の狭間

しおりを挟む
 新書が新書として扱われるのは、装丁が如何にも新書らしく、サイズが新書のそれだからだ。そして、文庫が文庫として扱われるのも同様の理由だ。つまり、そこには外見という共通性があるだけで、内容にまで共通性があるわけではない。けれど、どういうわけか、文庫を読んでいる者よりも、新書を読んでいる者の方が理知的に見える、という人が多いみたいだ。統計をとったわけではないので、具体的なデータは存在しないが、少なくとも、月夜にはそのような傾向があるように思えた。実際にそう言われたことがあるからだ。

「本を読んでいるだけで、充分理知的だがな」

 月夜と一緒にソファの上で丸まった姿勢で、フィルが言った。

「うーん、そうかな」月夜は応じる。「ゲームをしている人も、理知的に見える気がするけど」

「おいおい、冗談だろう? あんなの、機械に示された通りに、反応を返しているだけじゃないか」

「でも、瞬時に反応を返せるのは、それなりの知能があるからでは? 読書は、単なるインプットだから、そこまで高度な知能がなくてもできるかもしれない」

「単なるインプットじゃないさ。きちんと咀嚼して、理解するのが読書だろう?」

「この国に、そうやって本と向き合っている人が、果たしてどれくらいいるだろうか」

 月夜がそう言うと、フィルは可笑しそうに笑った。口の中で金平糖を転がしたような響きだった。

「辛辣な言葉だな」

「純粋な疑問として言った」

 月夜は一度身体を起こし、目の前にあるテーブルからコーヒーの入ったカップを取る。食べる行為に比べれば、飲む行為は月夜は日常的にする傾向にあった。

「まあ、でも、読書家たちは、本を読んだ文字数とか、冊数を口にしたがるからな」フィルが話を続けた。「数字という、具体的な指標だから、ほかの者と比べやすいんだろう。それに比べて、理解の度合いはそう簡単には計れない。しかし人間は、相手がどの程度理解しているかということを、感覚的に把握するものだ。読書家の話を聞いても全然面白くないのは、そういうことも関係しているかもしれない。面白かったか、面白くなかったか、そのどちらかの感想を聞かされても、こちらとしてはどうでも良いからな」

「それは、フィルの見解?」カップを口から離して、月夜は彼に尋ねる。

「俺が口にしているんだから、当然だろう」

「じゃあ、私が代わりに口にしたら、私の見解になるの?」

「そういうのは、伝聞というんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...