舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第8章

第71話 等値・非等値の並立と自己制御の境界線

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 また学校が始まった。学生生活というのは、繰り返しの日々を送ることにほかならない。社会人も似たようなものだろうが、とにかく、一週間というサイクルに縛られている。しかし、月夜も学生には違いないが、どういうわけか、そういった意識はあまり色濃くはなかった。

 いつも通りの時間に起きて、いつも通り勉強して、いつも通り家をあとにして、そうして、いつも通りバスに乗って学校に向かう。目に映るのはたしかにいつも通りの景色だが、いつも通りではない点も所々に見られる。人間は変化の中で生きている。いつも通りというのは、すなわちイコールということだが、一方で、イコールにできない部分もある。その両者が備わっているという点は、人間というシステムの中で特筆に値するだろう。

 というようなことを考えている内に、目的地のバス停に到着して、月夜はバスを降りた。あと一つで終点だが、その一つ手前で降りるようにしている。そうしているのは彼女だけではなく、乗り合わせている大半の人々がそうだった。終点に到着するのを待つより、一つ前で降りた方が結果的に早いからだ。光の性質と似ているかもしれない。

 学校に到着してから、月夜は一度くしゃみをした。

 正確には、くしゃみが自然と出た。

 それから、立ち止まって、どうしてくしゃみが出たのだろう、と考えてみたりする。

 誰かが自分の噂話でもしているのだろうか。

 朝の冷気で少々冷え気味の校舎を歩いて、所属する教室に入る。もちろん誰もいない。自分の席に着いて鞄を開き、本を取り出して読み始める。

 カップに入っているコーヒーは、大抵の場合静止している。把手に指をかけて飲もうとしたとき、その力の影響を受けて水面は揺れる。揺れは四方八方の壁にぶつかって波及し、カップが置かれても暫くはそのまま、やがて完全に静止してまたもとの状態に戻る。

 自分の胃の中はどうなっているだろうか。歩いたり、走ったりしているとき、カップの中のコーヒーみたいに、胃液は揺れているのだろうか。だとすれば気持ちが悪くなってもおかしくないように思えるが、実際のところ、そんなことはまったく感じずに、日々様々に身体を動かして生活している。

 胃には感覚神経がないのかもしれない。

 よく、自分でやれ、というような言葉を聞くが、人間が自分でできることは限られている。意識的に心臓を動かすことはできないし、消化もすべて自動的に行われる。

 意志とは何だろう?

 環境の中で、個体は独立して動くものだろうか?
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