舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第9章

第85話 一度あったことが二度あった

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 リビングの硝子戸が開かれる。思考の世界から現実へと意識が戻った。フィルが器用に戸を開けて、また器用にそれを閉めている。彼は月夜の足もとまでやって来ると、そのまま彼女の隣に飛び移った。

 姿が見えたときから分かっていたが、フィルは口に白い陶器製の物体を咥えていた。

 見たことのある形。

 小さな皿だった。

「どこで、これを拾ったの?」

 フィルの口から皿を受け取って、月夜は彼に尋ねた。

「どこだと思う?」フィルが尋ねる。

 月夜は皿の表面をじっと見つめる。以前拾ったものと大差はなかったが、まったく同じというわけでもなさそうだった。所々に砂か泥か分からない汚れが付着している。表面はざらざらとした手触りで、意図的にそうしたデザインが施されているように思えた。

「また、うちの近く?」

「玄関の前ではなかったな」フィルは淡々と話す。「うちの外壁に沿った通りだ。ぎりぎり敷地の範囲内といえるかもしれない」

 皿を目の前のテーブルに置いて、月夜は腕を組んで静止した。

「ほう。随分とわざとらしい格好をするじゃないか」

 フィルに言われ、月夜は目だけでそちらを見る。

「何が?」

「探偵にでもなったつもりかな」

「探偵という職業は、現代にもあるのかな」

 同じような皿が一枚だけでなく、二枚自宅の周囲に落ちているのが見つかったという現象について、どのような判断をするべきか決めなくてはならなかった。だが、考えられることはもうほとんどない。一度でなく、二度起きたのだから、偶然ではなく、何らかの意思を持った存在が、意図的にそうしたと考えるのが自然だ。あとはその解釈を受け入れるか否かの問題になる。二度だけでは証拠に乏しいと考えることもできなくはない。三度目を待つ必要があるだろうか……。

「小夜に訊いてみることにしよう」月夜は言った。「何か知っているかもしれない」

「俺にもなんとなく分かる。これは、一連の事象と関係がある」

「一連の事象、とは?」

「小夜が、近々お前が物の怪に殺される、と予想している、そのことだ」

 今すぐ小夜の住む神社に向かっても良かったが、今日は平日で、学校に行かなくてはならなかったので、月夜は荷物を持って家の外に出た。

「俺は、暫く家の前で見張っていよう」月夜を見上げて、フィルが言った。

「たぶん、今日はもう来ない」

「そう言えるだけの根拠がないさ。どんなときも、可能性はゼロではない」
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