91 / 255
第10章
第91話 凡なる思考
しおりを挟む
夜。
教室の窓硝子が音を立てて、月夜は目を覚ました。どういうわけか、机に伏して眠ってしまっていた。頭を持ち上げると額が少し痛んだ。顔を横に向け、音がする方を確認する。
硝子の表面を爪で引っ掻いていたフィルを室内に入れて、月夜は伸びをした。関節が適切な位置に配置し直されるようで、気持ちが良い……、ような気がした。感情や感覚に名前を付けるのが苦手なので、自分が今感じているそれが、一般化するとどのようなものになるのか分からない。
「お眠りだったのか、お姫様」
床に座って自分の腕を舐めながら、フィルが言った。
「お眠りだった」月夜は答える。
「さあ、早く準備をして、出かけよう」
「出かけるって、どこへ?」
「決まっているじゃないか」フィルは片方の目を細める。「小夜のところだろう?」
最近身の回りで起きている一連の事象について、小夜に相談しようと思っていたが、別に今日行く必要はなかった。少なくとも月夜はそう判断していた。だが、フィルはすでに神社に行ってきて、そこで小夜と少々話をしてきたらしい。つまり、今晩は小夜がこちらに来ている。
鞄を持って学校を出た。正門の隣にある小さな扉を開けて、線路沿いの道を歩く。普段に比べるとまだ幾分早い時間帯だったから、バスに乗れそうだった。フィルが一緒だが、彼は普通の人間には見えないみたいだし、月夜も似たようなものなので、何でも良かった。
「皿を落とした犯人は、見つかった?」
バス車内で席についてから、月夜はフィルに尋ねた。彼は行儀良く彼女の隣に座っている。
「いいや」
「落としたのが、どうして皿だったのかについては、何か考えた?」
「ああ、考えたよ」フィルは頷く。「だが、どれも非常にどうでも良い結論だったから、俺はパスだ。お前はどうだ?」
「私に、何かを食べてほしいのかもしれない、と思いついた」
「なんだ、それは」フィルは笑った。「俺の考えたことと大して変わらないじゃないか」
「つまり?」
「凡庸」
バスが曲がる。物理的な力を受けて身体が揺れる。
「仮に物の怪たちがお前に何かを食べさせようとしているとして、それでどうなるんだ?」
「私は、食べることがそこまで好きではないから、嫌がらせのつもりかも」
「そこまで好きではないというのは、嫌いというのとは違うだろう? そうすると、嫌がらせと呼べるかどうか微妙だな」
「最近、色々食べてしまった。ヨーグルトとラーメン」
教室の窓硝子が音を立てて、月夜は目を覚ました。どういうわけか、机に伏して眠ってしまっていた。頭を持ち上げると額が少し痛んだ。顔を横に向け、音がする方を確認する。
硝子の表面を爪で引っ掻いていたフィルを室内に入れて、月夜は伸びをした。関節が適切な位置に配置し直されるようで、気持ちが良い……、ような気がした。感情や感覚に名前を付けるのが苦手なので、自分が今感じているそれが、一般化するとどのようなものになるのか分からない。
「お眠りだったのか、お姫様」
床に座って自分の腕を舐めながら、フィルが言った。
「お眠りだった」月夜は答える。
「さあ、早く準備をして、出かけよう」
「出かけるって、どこへ?」
「決まっているじゃないか」フィルは片方の目を細める。「小夜のところだろう?」
最近身の回りで起きている一連の事象について、小夜に相談しようと思っていたが、別に今日行く必要はなかった。少なくとも月夜はそう判断していた。だが、フィルはすでに神社に行ってきて、そこで小夜と少々話をしてきたらしい。つまり、今晩は小夜がこちらに来ている。
鞄を持って学校を出た。正門の隣にある小さな扉を開けて、線路沿いの道を歩く。普段に比べるとまだ幾分早い時間帯だったから、バスに乗れそうだった。フィルが一緒だが、彼は普通の人間には見えないみたいだし、月夜も似たようなものなので、何でも良かった。
「皿を落とした犯人は、見つかった?」
バス車内で席についてから、月夜はフィルに尋ねた。彼は行儀良く彼女の隣に座っている。
「いいや」
「落としたのが、どうして皿だったのかについては、何か考えた?」
「ああ、考えたよ」フィルは頷く。「だが、どれも非常にどうでも良い結論だったから、俺はパスだ。お前はどうだ?」
「私に、何かを食べてほしいのかもしれない、と思いついた」
「なんだ、それは」フィルは笑った。「俺の考えたことと大して変わらないじゃないか」
「つまり?」
「凡庸」
バスが曲がる。物理的な力を受けて身体が揺れる。
「仮に物の怪たちがお前に何かを食べさせようとしているとして、それでどうなるんだ?」
「私は、食べることがそこまで好きではないから、嫌がらせのつもりかも」
「そこまで好きではないというのは、嫌いというのとは違うだろう? そうすると、嫌がらせと呼べるかどうか微妙だな」
「最近、色々食べてしまった。ヨーグルトとラーメン」
0
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる