舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
93 / 255
第10章

第93話 to die for...

しおりを挟む
 夜の山の中は暗い。照明も何もないので、星や月の明かりを頼りにするしかない。神社は斜面の頂上にあるから、比較的明るい方ではあった。自然の妖光に照らされて、露出した小夜の首筋がよく見える。

「フィルは、一度死んでいるというのは、本当?」

 誰も何も話していなかったが、月夜は言葉を発した。別に何の勇気もいらなかった。

 小夜とフィルが同時に彼女の方を向く。

「本当です」先に答えたのは小夜だった。「でも、一度ではありません。彼は九回死んでいます」

 発話権が自分にはないと判断したのか、フィルは小夜の膝の上で丸くなってしまった。眠るつもりはないだろう。眠るような格好をするのが、彼のお気に入りなのだ。スーツを着るとズボンのポケットに必ず手を入れたくなる心理と同じかもしれない。

「それは、小夜のため?」

「ええ、そうです」小夜は頷く。「彼はそういうひとです」

 小夜とフィルの関係について、月夜はおおよその枠組みは知っている。けれど、ディテールに関しては、知らないこともある。フィルが死んで物の怪となったのは、小夜を庇うためだったらしい。庇うというと、少し言いすぎかもしれないが……。

「誰かのために命を捨てる行為は、いつの時代にも見られることです。それは、何かへのイニシエーションのように、私には思えます」

 小夜はフィルの背中を撫でる。フィルは相変わらずなんともないような顔をしていて、たぶん、明日地球に巨大隕石が降ってくることになっても、そんな顔をしているのだろうな、と月夜は奇妙な想像をした。

「おそらく、一種の愛情表現なのでしょう。身を尽くしてその人に貢献する……。その犠牲の終着点として表れるのが、死です。自分を最大限に犠牲にするのが、死なのです。でも、それはおかしな行為です。身を犠牲にする側は、自分が犠牲になることで相手が助かると思い、そして、そうした結果を確認することで、安らぎを得るのです。けれど、死んでしまったら、相手の状態を確認することができなくなります。つまり、死は本来の愛情の在り方のルールを逸脱した、特別なケースといえます。相手と自分が存在することで、愛が生じるはずなのに、そのための要素である、自分そのものをなきものにしてしまうのですから……」

 風が吹く。

 ちょっと、冷たい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...