舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第11章

第105話 白は無ではない

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 白く染まった坂道。まるで雪のように、踏むとぱきぱきと音を立てる皿たち。

 眼前には富士山。まだ微かに雪を残し、登山客の到来をじっと待つ。今も誰か上っているかもしれない。単に高度が上がっただけで、同じ地面には変わりないのに、それを取り立てて「山」と呼んだり、その頂上に上りたくなるのはなぜだろう。

 一歩ずつ、一歩ずつ、前に進む。

 アスファルトの地面に破片が擦れて、耳障りな音を立てることもあるが、物と物の接触には美しさを感じさせる神秘がある。いや、神秘とは元来美しく感じられるものだろうか。けれど、「神秘=美しい」ではない。では、「神秘>美しい」だろうか。

 アスファルトの黒。

 黒猫の黒。

 散らばった皿の白。

 富士山の白。

 そして、横断歩道の黒と白。

 幸いなのか、すでに全然幸いではないのか分からなかったが、自動車が走る道路には、ばら撒かれた皿の影響は及んでいなかった。皿が散らばっているのは歩道だけだ。でも、ずっと向こうまで道は真っ白に染まっているから、被害はそれなりに大きいと言っても過言ではない。

 皿に埋もれた街。

 時間がまだ早いから、途中で誰ともすれ違わなかった。家を出て、歩道がこんな状況になっているのを目の当たりにしたら、人々はどんな反応を示すだろう。それでもやはり生活を優先するから、ちょっとだけ驚いた素振りを見せて、家族に手を振って仕事に向かうのだろうか。

 まさに、雪が積もるのと同じ程度。

 雪も皿も誰でも知っている。

 既知の存在が、未知の状況に現れた。

 未知の存在が、未知の状況に現れたら、それは完全な未知といえるだろうか?

 既知とは何だろう?

 未知とは何だろう?

 太陽の光が白い地面に眩しく反射していた。今までずっと黒い地面の上で生きてきたから、それが普通なのだと思っていた。青い地面とか、赤い地面だったら、もっと愉快な気分になるかもしれない。月夜は別に愉快でも何でもなかったが。

 バス停でバスを待つ間、皿を踏みつけて遊んだ。しゃりしゃりと音がして面白かった。ファニーではない。インタレスティングだと思った。

 バスがやって来る。

 バスがやって来た方の歩道も、白く染まっている。

 バスのドアが開いたとき。

 乗客の誰一人としてこの状況に気がついていないことに、月夜は気がついた。
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