舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第11章

第106話 比日常的では明朝でもない

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 バスを降りて学校に向かう道中、ずっと皿が地面に並んでいた。ルゥラが一人で配置したのだとしたら、相当な道のりを進んできたことになるが、たぶん、彼女には純粋な物理法則が適用されない。言ってみれば波みたいなものだろう。粒子の世界では、直感的に理解可能な形で法則は成立していないらしい。

 どういうわけか、フィルも一緒についてきていた。いつもなら月夜がバスに乗る前に別れて、彼は彼で散歩道を歩むはずだが、今日は気分が違うようだ。

「気分が違うのではないな。お前のことが心配なんだ」

 皿の上を歩くのが疲れたと言って、フィルは月夜の腕の中にいた。大層な口を利く割に彼はいつもだらしがない。

「そういうのを、気分と言うのでは?」

「気分じゃなくて、気持ちだろう」

「気分と気持ちでは、何が違うの?」

「口にするときの気持ちが違う」

 線路に皿が散乱しているようなことはなかった。道路も同じだ。自分たちにしか見えていないようだが、何らかの配慮が成されているみたいだ。自分がお節介を発揮して、すべての皿を集めようとした際に、交通事故になるのを防ぐためだろうか、などと考えてみたりする。

「小夜が言っていたのは、あいつのことだろうな」フィルが話し始めた。彼は行動がいつも唐突だ。「自分では物の怪だと言っていたが、たぶん、まだなりきれていない。発展段階といったところだろう」

「じゃあ、まだ私を殺すようなことはできない?」

「食事をしてもらうことで、お前を殺すことができると考えているみたいだな」

「嫌なことをされたら、ストレスが溜まるから、それで死んでしまうことはあるかもしれない」

「一般論としてはな」フィルは目だけを上に向ける。「それで? お前の場合はどうなんだ?」

「それは、ストレスで私が死ぬことがあるか、という質問?」

「もちろん」

 月夜は数秒間黙って考える。

「ないことはないと思う」彼女は答えた。「でも、何がストレスで、何がそうでないのか判断したことがないから、よく分からない」

「適切な回答だ。さすがは優等生」

「何が優等生で、何がそうでないのか判断したことがないから、よく分からない」

 学校の敷地内にも皿が散らばっていた。昇降口の前にある池の中にも何枚か浮かんでいる。覗いてみると、沈んでいるものも何枚か見つかった。
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