舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第13章

第129話 そもそも現在はどのように定義するのか?

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「小夜が皿を片づけ始めた、とフィルが言っていた」真昼の隣に腰を下ろして、月夜は言った。「それと、貴方は関係があるの?」

「いや、ないね」真昼は即答する。それから月夜から受け取ったお茶を一口飲んだ。「僕は僕自身の考えで行動しているから、彼女のそれとは別だ」

「貴方も、私から物の怪を遠ざけようとしているの?」

「貴方もということは、小夜もそうしようとしているのか」

「物の怪の影響から、私を遠ざけようとしている?」

「うーん、まあ、そうなるね。しかし、それは純粋に月夜のことが心配だからだ。物の怪でなくても、月夜に危険が迫っているなら、僕はいつだって駆けつける」

「いつだってというのは、嘘だと思う」

「嘘じゃないさ。現に今駆けつけているだろう?」

「いつだってというのには、過去も含まれているの?」

「うん、含まれていないね」

「では、いつだってというのは間違いでは?」

「人間が行動の対象にできるのは、現在を起点とした未来だけだからね。わざわざ、過去のことを考える必要はないんじゃないかな? 想起や回想……、そうしたものの対象として過去をとることはできるよ」

「真昼は過去には行けない?」

「行けないってどういうこと? 歩いて行くとか、自動車に乗って行くとか、そういう話?」

「うーん、違う」

「僕が過去に行けるとしても、君から見れば関係のないことだよね」真昼は説明する。「君が過去に戻れないのなら、君は常に現在から未来に向かって進んでいるわけだ。ということは、例え僕が未来から過去にやって来て、今君と話していたとしても、それは君からすれば未来に向かう現象の一つにすぎない」

「なるほど」

「なるほどというのは、成る程と書くらしいね」

「話し言葉だから分からないけど」

「けど、何?」

「いや、それで終わり」

「そう」

 沈黙。

 真昼が再び茶を啜る。

 月夜は手を伸ばして、彼がコップを持っている手に触れた。

「何?」月夜の顔を見て、真昼は首を傾げる。

「会いたかった」月夜は言った。

「へえ。君がそんなことを言うとは、思わなかったな」

「そうかな」

「そうだよ。僕の話をしているんだから、そうなんだ」真昼は笑う。「君も少しずつ変わっていくみたいだね」
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