舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第15章

第148話 突然変異

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 小夜と分かれて帰路を進んだ。斜面を下って公園に向かう。フィルはいつも通り一人でひょいひょいと下りていく。ローファーが滑って、月夜は体重を移動させるのが難しかった。

 公園には誰もいなかった。寂しいとは感じない。一人だけ子どもがいる方が寂しいだろう。静けさを感じるのと同じ原理だ。

 公園を出て歩道に足を踏み出したとき、違和感を覚えた。

 目の前の道路が真っ白に染まっていた。

 月夜はその場で立ち止まる。フィルが彼女を見上げた。

「どうする?」

 前を見たまま月夜は応じる。

「どうする、とは?」

「小夜に報告するか?」

「小夜はもう分かっているのでは?」

「まあ、そうだろうな」

「家に帰ろう」

 皿が割れるのを厭わずに、月夜は走って自宅へと向かった。ぱきぱきと音がして背筋が震えるような気がした。皿が割れる音が怖いのではない。そもそもそれは恐怖心なのか? 恐怖と悦びは似ているようにも思える。感情は根底の部分で一つということか。

 坂道を曲がってカーブした道を進む。

 自宅があるべき場所に辿り着いたとき、それが自分の家だとすぐに気がつかなかった。

 屋根と壁の隙間から陶器が落ちてくる。それは地面に接触し音を立てて砕け、その場に停滞する。割れているものと、割れていないものが混ざり合って、光を奇妙に反射させている。

 鞄から玄関の鍵を取り出して、ドアに差し込んで室内に入った。靴を脱がずにリビングへと向かう。室内も真っ白になっていて、床はほとんど見えなかった。

 リビングにルゥラの姿はない。

 ドアを開けて外に飛び出し、階段を上って自室に入ろうとする。ドアがつっかえて上手く開けられなかった。

 細かい何かを大量に引きずる奇怪な音を伴いながら、ドアが向こう側へと押しやられていく。

 一瞬の静寂。

 半分だけのドーナツが入った袋が、手から離れて皿の地面に落ちた。

 室内に居座る何者かがこちらを振り返る。

「あ、おかえり、月夜」

 それはルゥラの声で言った。

 彼女は笑っている。

 月夜は自分の呼吸が荒くなっていることに気がついた。

 不思議だった。

 ここは安堵するのが正しい反応ではないのか?

「遅かったね。ご飯、食べる?」
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