舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第15章

第149話 突然憑依

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 黒い靄のような塊があった。それは奇妙に蠢いて、己の在り様を吟味しているように見える。部分的に顔や腕のような形が見えた。

「月夜?」黒い塊が首を傾げるような動きをする。

「……何?」月夜は応える。

「落ちたよ、それ」

 黒い塊が腕を伸ばして、月夜が手から離したビニール袋を指さす。月夜は一度屈んでそれを拾い、もう一度正面の塊に目を向けた。

「……ルゥラ?」

「何?」

「皿を生み出したのは、貴女?」

「皿?」

「街や、それに、ここにも、沢山ある」

 黒い塊は周囲に目を向ける。それから少し驚いたように声を上げた。

「……本当だ」

「ルゥラが生み出したんじゃないの?」

「私、知らないよ」黒い塊が首を振る。「でも、これができるのは私で……」

「月夜、離れた方がいい」足もとにいるフィルが声を上げた。

「なぜ?」

「いいから!」

 突然、黒い塊が勢いを伴って爆ぜ、月夜の所へ激しく迫ってきた。月夜は咄嗟に後ろに身を引き、把手を掴んでドアを閉めようとする。金属製の可動部がぎしぎしと音を立てた。外れそうなほど木板が何度も捩れる。

 室内から笑い声。

 知らない声だった。

 怒号のように覇気に満ちた声が徐々に高くなり、やがて楽しそうな笑い声になった。室内で何かが暴れている。ドアの動きがなくなった代わりに、振動が床を伝って月夜の足もとまで伝わってきた。皿の割れる音。砕けた陶器の破片がドアと床の隙間からこちらへ飛び出してくる。

 一通り物音がしなくなってから、月夜はドアを開けた。皿の破片に邪魔をされて開けるのが大変だったが、どうにか向こうへと押しやる。摩擦で床が傷ついたかもしれない。

 部屋の中央にルゥラが横たわる様が見えた。

 彼女は口を少しだけ開いたまま、目を閉じて身動きをしない。

 俯せになったまま、背中が微妙に上下運動をしていた。

 彼女のもとへ駆け寄ろうと踏み出したとき、ドアの向こうから人影が姿を現した。

 月夜は強引に首もとを掴まれる。

 そのまま何度か前後に揺すられた。

「HAHAHAHAHA !」

 わざとらしい笑い声。伸びた爪が首筋に食い込んで、血が滲み出るのが分かった。

「凄い力じゃないか」前後に揺する動作を唐突に止めて、大きな瞳が月夜を覗き込んだ。「もう少しで、殺してしまうところだったよ」
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