舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第16章

第154話 総長

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 学校を休むことにした。今まで休んだことはなかったはずだ。休む際はどのような手続きが必要なのか分からなかったので、とりあえず担任に連絡することにした。ホームルームが始まる一時間前に電話をかけると、無事に繋がって休む旨を伝えられた。担任は何も言及しなかった。

 ルゥラが料理を作らなければ、月夜は朝食をとらなかった。特にお腹も空いていない。むしろ予期しない事態に遭遇して、いつも以上に空腹のパラメーターが麻痺しているように思える。本当はそんなものはなかった。単に今日も平常運転というだけだ。

 ルゥラの隣に腰を下ろして本を読んでいると、やがて毛布がもぞもぞと動く気配がした。月夜は手もとの本から視線を逸らし、ルゥラの方に目を向ける。

 目を開いてルゥラは何度か瞬きした。開けっ放しでは機能不全なので当然だ。

「……おはよう」

 上から覗き込む月夜に向かって、ルゥラが小さな声で挨拶する。

 月夜は挨拶を返す代わりにルゥラに身を預けた。

「……? 何?」ルゥラは恐る恐る月夜の背中に手を回す。

「どこも苦しくない?」

「え?」ルゥラは声を上げる。「うーん、ちょっと首が苦しいような……」

 月夜はルゥラの首に回した腕を緩める。

「今、何時?」

「八時半くらい」月夜はルゥラの質問に答えた。

「え!?」ルゥラが身を起こそうとする。「月夜、何やってるの? 早く学校に行かないと!」

「学校は休むことにした」

「なんで? どこか具合が悪いの?」

「ルゥラは? どこも具合は悪くない?」

「私? 私は……。……そういえば、ちょっと身体が重たいかも」

 月夜はルゥラの上から身を退かし、また彼女の隣に座った体勢に戻る。ルゥラも身体を起こして月夜の隣に並んだ。

 肩から落ちかけた毛布。

 無造作に垂れ下がった髪。

「何も覚えていない?」月夜は質問する。

 ルゥラは一度右側に首を傾け、さらに反対側にも首を傾ける。

「……待って、思い出すから」そう言って、ルゥラは月夜に掌を差し出して俯いた。

 数秒間の沈黙。窓の外で風が吹く音が聞こえる。

「……だんだん、思い出してきたかも」ルゥラが呟いた。「そうだ。私、月夜の部屋で待っていたら、突然、ドアが開いて、月夜が帰ってきたと思って、それで……」

 ルゥラは顔を上げて逡巡する。

「ドアの向こうを見ても誰もいなくて、また部屋の中に戻ったんだ。でも、なんだか身体が言うことを聞かなくなって……」

「ルンルンというひとに、身体を乗っ取られていたらしい」月夜はフィルから聞いたことを伝えた。「貴女の力を無理矢理使っていた」

「……どういうこと?」

「彼女は物の怪を狙っている」

「物の怪?」

「ルゥラは物の怪なんでしょう?」

「うん……」ルゥラは小さく頷いた。
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