舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
156 / 255
第16章

第155話 上手に使いなさい

しおりを挟む
「うーん、なんだか身体が痛いなあ……」ルゥラは自分の肩に触れる。「私の身体って弱いのかなあ……」

 ルンルンも弱い身体だと言っていたが、そんなことはないだろう。あれほど派手に暴れられたら、誰だって身体を痛めるに決まっている。

「今日は休んでいた方がいい」月夜は言った。「無理をしても、いいことは何もない」

「月夜が言っても説得力ないよ」ルゥラは彼女を上目遣いで睨んだ。「毎日帰ってくるのが遅くて、夜更かしもしていてさ」

「私にとって無理ではない」

「無理だよ。最近、なんだか眠そうだし」

「おそらく、前と生活リズムが変わったせい」

「私が毎朝ご飯を作るようになったから?」

「ルゥラが傍にいるだけで、色々と変わる気がする」

 ルゥラはくすくすと笑った。リスではないのだが。

「フィルはどこ?」

 ルゥラに問われ、月夜は目だけ上に向ける。

「二階で皿を片づけている」

 ルゥラは月夜を見つめる。彼女は目を何度か瞬かせた。それから周囲に視線を巡らせる。リビングは大分片付いていたが、重ねられた皿が部屋の隅に置かれていた。

「私、どうしてこんなことしたのかな」

「ルンルンに乗っ取られていたから。貴女のせいではない」

「私、この力、もういらないと思うんだ」ルゥラは自分の手を見る。「だって、月夜にご飯を食べてもらえて、もう願いは叶えられたんだから」

「私にご飯を食べてもらうために、どうして皿が必要だったの?」

 ルゥラは少し困ったような顔をする。

「うーん……」

「前に、皿が好きだと言っていた」

「そうだよ。円くて、白くて、格好いいよね」

 格好良いだろうかと月夜は自問する。結論は出ない。

「なんでだろうなあ……」ルゥラは何度か頭を回した。「なんとなく、そうすればいいって思っただけなんだ。ご飯を食べるきっかけになるというか……」

「力をなくすことはできるの?」

「ううん、分からない」ルゥラは首を振る。彼女の挙動は分かりやすい。自分もそうかもしれないと月夜は思う。「皿を生み出すのはいつでもできるんだよ。今、やってみようか?」

「やりたいの?」

「別にやりたくはないけど」

「沢山は困る」月夜は言った。「でも、ルゥラが生み出す皿は、どれも個性的で面白い」

「そう? うーん、それ自体を目的にすればいいのかな……」

「今ある力は失わない方がいい。少なくとも、そちらの方がポテンシャルは高い」

「ぽてんしゃるって何?」

「直訳すれば、可能性」

「可能性?」

 月夜は一度黙って考える。

「その力を保持していた方が、後々何らかの役に立つ可能性がある、ということ」

「ほんとに?」

「おそらく」

「そっかあ……。つまり、上手に使いなさいって言いたいんだね?」

「そう、かな……」

「分かった」ルゥラは笑顔で頷いた。「上手に使う」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...