188 / 255
第19章
第187話 混在する人工と屹立する自然
しおりを挟む
川に差しかかった。この川は月夜の自宅の傍からずっと続くものだ。傍というのは、何かと便利な言葉だが、やはり明確に定義されていない。使用する場面ごとに定義されることが想定されているからだろう。
川は人工的に整地されてはいるが、申し訳程度の処置で、まだ、いわゆる「自然」の状態として残っているように見える。流れる水は綺麗だったし、所々で水面に表出した岩は規則的な断面を持っていなかった。向こう岸には竹や柳が立っている。その向こうには山が広がっていた。ただし、月夜の自宅の傍にある山に比べれば小規模だ。
皿は川より一つ上の層に設けられた道の上に続いている。ただし、数が疎らになりつつあった。どうしてかは分からない。ルゥラの能力が限界に近づいたからだろうか。
「電線が通っていないな」
フィルのコメントを受けて、月夜は顔を上に向ける。たしかに、川の付近には電線が巡っていなかった。もちろん電柱もない。しかし、それがどうしたというのだろうか。
「それがどうしたの?」月夜はその通りの質問をする。
「別にどうもしないが」フィルは言った。「単なる気づきにすぎない」
皿は途中で道を逸れていた。どういうふうに逸れていたかというと、柵の向こう側に続くように逸れている。つまり、ここにきて、本来道でない場所を通るようになったということだ。何らかの意図が感じられるが、それがルゥラの意図なのか、それとももっと別の何かの意図なのかは分からない。
……もっと別の何か?
何かとは何だ?
自分が今抱いているこの違和感は、何だろう?
「おそらく、皿の配列の仕方が、ルゥラのそれとは違うことに起因するものだろう」月夜の腕の中で首をころころさせながら、フィルがコメントした。なお、彼はもう歩きたくないらしい。起きてすぐに歩いたことで、通常の五千倍ほど疲れたとのことだ。「お前は以前からそれに気がついていたが、自覚することがなかった。事象は確かに見えていて、それは情報として脳で処理されていたが、それだけでは意味がない。通常の脳の機能を超えた何かによって、それに確固たる意味が与えられなければ、それはその者にとって存在しないのと同じだ。どうやら、人はそういうシステムのもとに成り立っているらしい。勉強と同じだな」
「最後の、勉強と同じ、というのは、勉強と、何が、同じなの?」
「その、一連のプロセスが」
月夜はフィルを抱き締める力を強めた。
「分かりにくい」
川は人工的に整地されてはいるが、申し訳程度の処置で、まだ、いわゆる「自然」の状態として残っているように見える。流れる水は綺麗だったし、所々で水面に表出した岩は規則的な断面を持っていなかった。向こう岸には竹や柳が立っている。その向こうには山が広がっていた。ただし、月夜の自宅の傍にある山に比べれば小規模だ。
皿は川より一つ上の層に設けられた道の上に続いている。ただし、数が疎らになりつつあった。どうしてかは分からない。ルゥラの能力が限界に近づいたからだろうか。
「電線が通っていないな」
フィルのコメントを受けて、月夜は顔を上に向ける。たしかに、川の付近には電線が巡っていなかった。もちろん電柱もない。しかし、それがどうしたというのだろうか。
「それがどうしたの?」月夜はその通りの質問をする。
「別にどうもしないが」フィルは言った。「単なる気づきにすぎない」
皿は途中で道を逸れていた。どういうふうに逸れていたかというと、柵の向こう側に続くように逸れている。つまり、ここにきて、本来道でない場所を通るようになったということだ。何らかの意図が感じられるが、それがルゥラの意図なのか、それとももっと別の何かの意図なのかは分からない。
……もっと別の何か?
何かとは何だ?
自分が今抱いているこの違和感は、何だろう?
「おそらく、皿の配列の仕方が、ルゥラのそれとは違うことに起因するものだろう」月夜の腕の中で首をころころさせながら、フィルがコメントした。なお、彼はもう歩きたくないらしい。起きてすぐに歩いたことで、通常の五千倍ほど疲れたとのことだ。「お前は以前からそれに気がついていたが、自覚することがなかった。事象は確かに見えていて、それは情報として脳で処理されていたが、それだけでは意味がない。通常の脳の機能を超えた何かによって、それに確固たる意味が与えられなければ、それはその者にとって存在しないのと同じだ。どうやら、人はそういうシステムのもとに成り立っているらしい。勉強と同じだな」
「最後の、勉強と同じ、というのは、勉強と、何が、同じなの?」
「その、一連のプロセスが」
月夜はフィルを抱き締める力を強めた。
「分かりにくい」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる