舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第19章

第188話 同定する心理と分別する原理

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 フィルが月夜が抱く違和感の正体について説明してくれた。それによれば、皿を散乱させる主体がルゥラの場合と、ルンルンの場合で、その配列の仕方が異なるらしい。

 主体がルゥラの場合、皿は互いに重なるように配列される。つまり、竜の鱗のような状態になる。完全にそのようになるのではないが、根底にあるルールとして、それを実現することを目標に据えられた形で、実際に皿が配列されるようだ。

 一方、主体がルンルンの場合、皿は何の規則にも則らず、ただ無造作に配列されるにすぎない。しかし、ただ無造作に配列されるというのは、要するに、物理の規則に素直に従うということだから、結果的に何らかの規則がはたらいているように見える。

「どうして、私が感じていて、私が意識していないことが、フィルには分かるの?」月夜は不思議に思って質問した。それから、不思議を定義するとどのようになるのか、と少し不思議に思った。

「さあ、どうしてだろうな」フィルは首を傾げる。「俺とお前で繋がっているからか?」

「繋がっている?」

「近距離であれば、その場の空気を共有することになる。そういう意味では、物理的に繋がっているといえる」

「まず、フィルは呼吸をするの?」

「どうやらするらしいな」

「するらしい?」

 皿の配列の仕方は、その主体がルゥラの場合とルンルンの場合で異なり、それによって、誰が散乱させたのかを、月夜は無意識の内に判別していたようだ。だから、街中に皿が散乱している場合、散乱しているという現象としては同じでも、それが、同じか、違うか、判断することができた。

 そして、今抱いている違和感は、目の前に散乱している皿の配列の仕方が、ルゥラの場合とも、ルンルンの場合とも一致しないことに起因している。初めて見るものだから、その奇妙さが意識に上った。この場合、その奇妙さはノーマルとアブノーマルの比較によって明らかになるといえる。

「この先、気をつけた方がいい」フィルが言った。「何が起こるか分からない」

「それはいつだってそう」

「何かあったら、助けよう」

「それも、いつだってそのはず」

 フィルをパーカーのフードに入れ、月夜は柵を越えて道を外れた。そちらの方向に皿が続いているからだ。

 この先にルゥラがいるのは間違いない。

 しかし、それはルゥラだろうか?

 自分は、今まで、何を根拠に、それを、ルゥラだ、と見ていたのだろう?
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