舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第20章

第191話 「 」

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 振り返ると少女が立っていた。それがルゥラだと気がつくのに数秒を要した。五感を総合して形成された彼女の像が、月夜の知っているそれと合わなかったからだ。しかし、状況から推測する限り、彼女であることに間違いなさそうだった。感覚を思考でカバーしたことになる。

「ルゥラ?」

 月夜が尋ねても彼女は返事をしない。ルゥラは月夜の前まで来ると、それまで俯き気味だった顔を上げた。

 ルゥラの目は泳いでいる。月夜だけを見ようとしていない。では、何を見ようとしているのだろうか。

「ここから、出してほしい」月夜は言った。「これは、私の行動を制限するための方策だ、とフィルが言っていた」

 月夜がそう言うと、ルゥラは首を何度か左右に傾けた。その挙動自体は普段の彼女のものだったが、同じものとして見なすのは困難だった。

「うん、そうだよ」

 唐突に口を開いて、ルゥラが声を出した。

 しかし、上手く聞き取れない。

「ようやく、気がついてくれた? 何度もそうしようとして、失敗したんだ。だから、月夜に無理矢理ご飯を食べてもらうつもりだった。食べられなくなるまでね。食べられなくなっても、食べさせるつもりだった。限界を超えると、人って死ぬんでしょ? うん、そうやって、貴女を殺すつもりだった」

「貴女が、物の怪だから?」

 月夜の言葉を聞いて、ルゥラはけたけたと笑った。それは彼女の笑い方のバリエーションの一つだったが、やはり、その一つとして見なすのは難しい。

「そうそう。よく分かってるじゃん。分かってるのに、ずっと私を傍に置いて、馬鹿みたい」

「貴女を信じていた」月夜は言った。「私と仲良くするつもりだと、思い込んでいた」

「うん、そういうところも、本当にお馬鹿さん」

 先ほどからフィルが辺りを逡巡していることに、月夜は気がついていた。おそらく、この状況に対して何らかの処置をするつもりだろう。けれど、月夜は彼を抱き締める力を強めて、何もするなというサインを送った。眼下から鋭い視線を向けられるのを感じる。

「私たちにとって、貴女の存在は邪魔なんだ。だから早く殺してしまわないと」そう言って、ルゥラは一歩月夜に歩み寄る。「殺すのって、簡単なんだよ。人って、簡単に死ぬんだよ。生きている方が奇跡じゃない? 毎日、ご飯を食べ続けないと死んじゃうんだよ」

「私は死なない」

「うん、そうだよね。だから、その逆のことをして、殺すつもりだったんだ」
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