舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
192 / 255
第20章

第191話 「 」

しおりを挟む
 振り返ると少女が立っていた。それがルゥラだと気がつくのに数秒を要した。五感を総合して形成された彼女の像が、月夜の知っているそれと合わなかったからだ。しかし、状況から推測する限り、彼女であることに間違いなさそうだった。感覚を思考でカバーしたことになる。

「ルゥラ?」

 月夜が尋ねても彼女は返事をしない。ルゥラは月夜の前まで来ると、それまで俯き気味だった顔を上げた。

 ルゥラの目は泳いでいる。月夜だけを見ようとしていない。では、何を見ようとしているのだろうか。

「ここから、出してほしい」月夜は言った。「これは、私の行動を制限するための方策だ、とフィルが言っていた」

 月夜がそう言うと、ルゥラは首を何度か左右に傾けた。その挙動自体は普段の彼女のものだったが、同じものとして見なすのは困難だった。

「うん、そうだよ」

 唐突に口を開いて、ルゥラが声を出した。

 しかし、上手く聞き取れない。

「ようやく、気がついてくれた? 何度もそうしようとして、失敗したんだ。だから、月夜に無理矢理ご飯を食べてもらうつもりだった。食べられなくなるまでね。食べられなくなっても、食べさせるつもりだった。限界を超えると、人って死ぬんでしょ? うん、そうやって、貴女を殺すつもりだった」

「貴女が、物の怪だから?」

 月夜の言葉を聞いて、ルゥラはけたけたと笑った。それは彼女の笑い方のバリエーションの一つだったが、やはり、その一つとして見なすのは難しい。

「そうそう。よく分かってるじゃん。分かってるのに、ずっと私を傍に置いて、馬鹿みたい」

「貴女を信じていた」月夜は言った。「私と仲良くするつもりだと、思い込んでいた」

「うん、そういうところも、本当にお馬鹿さん」

 先ほどからフィルが辺りを逡巡していることに、月夜は気がついていた。おそらく、この状況に対して何らかの処置をするつもりだろう。けれど、月夜は彼を抱き締める力を強めて、何もするなというサインを送った。眼下から鋭い視線を向けられるのを感じる。

「私たちにとって、貴女の存在は邪魔なんだ。だから早く殺してしまわないと」そう言って、ルゥラは一歩月夜に歩み寄る。「殺すのって、簡単なんだよ。人って、簡単に死ぬんだよ。生きている方が奇跡じゃない? 毎日、ご飯を食べ続けないと死んじゃうんだよ」

「私は死なない」

「うん、そうだよね。だから、その逆のことをして、殺すつもりだったんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...