215 / 255
第22章
第213話 取るか否か
しおりを挟む
太陽に見守られながら洗濯物を干した。見守られながら、というのはあまりにも観念的な表現かもしれない。午後へと向かうにつれ、太陽の光線は次第に強くなっていく。今はそのピークに向かう最中だったから、見守られるというよりも、むしろ攻撃を受けているような感じだった。
月夜は、基本的に、洗濯物は一階に干す。一階というのは庭のことで、そこに物干し竿がある。一人分だから大層なものは必要ないが、どこに行っても大層な物干し竿しか売っていない。
蝉の声が耳に煩かった。いや、別に煩くはない。やはりそれも観念的な表現で、事実と差がある可能性がある。蝉の声は一般的には煩いものとして認識されているが、鳥の声はそうではない。それは、鳥の声は美しいものだという一般的な観念があるからだ。
夏。
去年の今頃は何をしていただろう、と月夜は考える。しかし、考えても何も思い出せなかった。そもそも、自分は去年も生きていただろうか? この家で、こんなふうに過ごしていただろうか? 人間の場合、思い出せないことがあるのは普通だ。一週間前の晩ご飯を思い出すことも難しい。
忘れることで生きていける。
もちろん、忘れることができないこともあるし、忘れてはいけないこともある。
寝坊してしまったから、少々の心配はあったが、どうやら洗濯物はすぐに乾きそうだった。手に付着した洗剤混じりの水が蒸発して、皮膚の水分を奪っていくのが感じられる。そうして、また濡れた洗濯物に触れて水分を取り戻す。その繰り返し。
ものから完全に水分をなくすことはそう簡単にできない。
フィルが今どこにいるのかは分からない。家の中にいるのかもしれないし、外へと遊びに行ったかもしれない。いずれにしろ、遙か遠くの彼方まで、たとえば、日本列島を横断して、ブラジルに向かった、というようなことはない。だから、会おうと思えばすぐに会えるし、全然寂しさは感じない。
けれど、月夜は、自分の中に一種の寂しさがあることに気がついていた。
それに気がついたのは、もう随分と昔のことだ。
随分と昔というのは、去年の夏よりも前だろうか?
……分からない。
特定の何かに対して寂しさを感じる、というわけではない。それはいつも自分の内側にあるが、蜃気楼のように見えたり見えなかったりする。
月夜は、基本的に、洗濯物は一階に干す。一階というのは庭のことで、そこに物干し竿がある。一人分だから大層なものは必要ないが、どこに行っても大層な物干し竿しか売っていない。
蝉の声が耳に煩かった。いや、別に煩くはない。やはりそれも観念的な表現で、事実と差がある可能性がある。蝉の声は一般的には煩いものとして認識されているが、鳥の声はそうではない。それは、鳥の声は美しいものだという一般的な観念があるからだ。
夏。
去年の今頃は何をしていただろう、と月夜は考える。しかし、考えても何も思い出せなかった。そもそも、自分は去年も生きていただろうか? この家で、こんなふうに過ごしていただろうか? 人間の場合、思い出せないことがあるのは普通だ。一週間前の晩ご飯を思い出すことも難しい。
忘れることで生きていける。
もちろん、忘れることができないこともあるし、忘れてはいけないこともある。
寝坊してしまったから、少々の心配はあったが、どうやら洗濯物はすぐに乾きそうだった。手に付着した洗剤混じりの水が蒸発して、皮膚の水分を奪っていくのが感じられる。そうして、また濡れた洗濯物に触れて水分を取り戻す。その繰り返し。
ものから完全に水分をなくすことはそう簡単にできない。
フィルが今どこにいるのかは分からない。家の中にいるのかもしれないし、外へと遊びに行ったかもしれない。いずれにしろ、遙か遠くの彼方まで、たとえば、日本列島を横断して、ブラジルに向かった、というようなことはない。だから、会おうと思えばすぐに会えるし、全然寂しさは感じない。
けれど、月夜は、自分の中に一種の寂しさがあることに気がついていた。
それに気がついたのは、もう随分と昔のことだ。
随分と昔というのは、去年の夏よりも前だろうか?
……分からない。
特定の何かに対して寂しさを感じる、というわけではない。それはいつも自分の内側にあるが、蜃気楼のように見えたり見えなかったりする。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる