舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第22章

第215話 居るか否か

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「どうした?」

 フィルの声が聞こえた。しかし、ぼんやりとしていて確固たる形を帯びていない。それはいつものことだろうと、自分の中の誰かが言った。

「しっかりしろ」

 また、フィルの声が聞こえる。

 掌に土の感触がしたが、すでに温度が分からなくなりつつあった。ずっと同じ場所に触れ続けているからだ。そうして身体を支え、立ち上がろうとするが、今ひとつ力が入らなかった。どうしてしまったのかと自分の身体に問い質すが、何も返答はない。そういうことは珍しくはなかったが、かといって頻繁に起こるようなことでもなかった。

 小さくても、異常は異常だ。何らかの対処が施されるべきだろう。

 どうするのが正解だろうか?

 動かそうとするから、動かないことに不満を抱く。

 それでは、動かそうとしなければ良いのか?

 フィルの身体に触れる腕から力を抜き、月夜は両手を地面に触れさせた。立ち上がろうと脚に込めていた力を離散させ、頭を物干し竿にもたれかからせる。

 少しだけ、気分が軽くなったような気がした。

 朧気に頭を上へと向けると、澄み切った青空が見える。油絵の具で描いたような濃度の高い色ではなかった。そのまま、見ているだけで宇宙へと飛び立っていけるような色をしている。大気中に含まれる水分の量は、冬に比べると多いはずだから、想定される事柄と事実の間にギャップがあるが。

「月夜」

 眼下からフィルの声。

 月夜は首の関節を動かして顔を下に向ける。

「何?」

「気分はどうだ?」

「気分?」月夜は首を傾げる。「悪くはない」

 地面に手をついて、身体をゆっくりと持ち上がらせる。今度は上手く力が入った。背後にある物干し竿を掴んで支えにし、体重を二本の脚から分散させる。

「何があった?」

 フィルに問われ、自分の身に何があったのか月夜は考える。

「突然、意識が失われそうになった」

「なぜ?」

「原因は不明」完全に立ち上がって、月夜はフィルを見下ろす。「色々な原因が考えられるため、現在、特定中」

「冗談を言えるだけの余裕があるのなら、問題はないな」そう言って、フィルは地面に落ちている洗濯物を口に咥えた。それを少し持ち上げて月夜に示す。「せっかく洗ったものが、汚れてしまった」

「フィルが咥えたことで、余計に汚れた」

「随分と失礼だな」

 フィルに差し出された洗濯物を、月夜は両手で受け取る。背を屈めると少々立ちくらみがしたが、問題はなさそうだった。
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