254 / 255
第26章
第252話 暗い部屋
しおりを挟む
暗い階段を上り、風呂上がりの髪を拭きながら自室へと向かった。そこは自室には違いないが、今は月夜が使っているのではない。ルーシが眠っているはずだ。
部屋の前にフィルが立っていた。月夜が来るのを予想していたようだ。あるいは、足音に気がついて目を覚ましたのか。そうでなければ、彼が何もしないで立っていることはありえない。
「もう、眠った?」
月夜が尋ねると、フィルは小さく頷いた。
「外からでは分からないが」
月夜はドアを開けて部屋に入る。部屋はあまり広くないから、布団を敷けば床の面積の大半が覆われる。その上にルーシが横になっていた。横になって横になっているのではなく、横になって上を向いていた。今は目は閉じている。
彼が自ら意識を失うのはいつ以来なのだろう、と月夜は考える。おそらく、彼はもう一人の自分の影響を受けて、自ら眠ることをしなかった。しかし、それでも問題はないはずだ。物の怪はもともと死んでいるから、眠らなくても体調を崩すことはない。
そうか。
ルンルンは彼を眠らせようとしたのかもしれない、と月夜は思いついた。
そう言い切れるだけの確証はない。単純に、一度で彼の息の根を止めることができなかっただけかもしれない。しかし、そうでなければ、傷を付けるだけで立ち去ったことの説明ができる。すなわち、ルーシはルンルンに力を奪い取られ、そのために意識を失った。それによって、もう一人の彼が出てくる余地はなくなった。ルンルンは、対象に憑依することで相手の力を奪い取る。その際に対象の意識が失われることは以前にもあった。
やはり、ルンルンが意図的に彼を眠らせようとした可能性は低い。しかし、完全にないとはいえない。何らかの手段で、彼女がルーシの特性を理解していた可能性もある。
「番は俺がしておく」フィルが月夜の傍にやって来て、彼女に言った。「お前ももう寝た方がいい」
「まだ、平気」
「眠たいんじゃなかったか?」
フィルに問われて、月夜はなんとなく自分の額に触れる。意味のないジェスチャーだった。でも、ときどきそういう動きをしたくなる。
「そうかもしれないけど、そうではない」
「下に行って、眠れ」
「じゃあ、そうする」
部屋の外に出て、階段を下りる。
途中で足が滑って、二段分を一度に下りることになった。
「大丈夫か?」頭上からフィルの声。
「大丈夫ではなさそう」
部屋の前にフィルが立っていた。月夜が来るのを予想していたようだ。あるいは、足音に気がついて目を覚ましたのか。そうでなければ、彼が何もしないで立っていることはありえない。
「もう、眠った?」
月夜が尋ねると、フィルは小さく頷いた。
「外からでは分からないが」
月夜はドアを開けて部屋に入る。部屋はあまり広くないから、布団を敷けば床の面積の大半が覆われる。その上にルーシが横になっていた。横になって横になっているのではなく、横になって上を向いていた。今は目は閉じている。
彼が自ら意識を失うのはいつ以来なのだろう、と月夜は考える。おそらく、彼はもう一人の自分の影響を受けて、自ら眠ることをしなかった。しかし、それでも問題はないはずだ。物の怪はもともと死んでいるから、眠らなくても体調を崩すことはない。
そうか。
ルンルンは彼を眠らせようとしたのかもしれない、と月夜は思いついた。
そう言い切れるだけの確証はない。単純に、一度で彼の息の根を止めることができなかっただけかもしれない。しかし、そうでなければ、傷を付けるだけで立ち去ったことの説明ができる。すなわち、ルーシはルンルンに力を奪い取られ、そのために意識を失った。それによって、もう一人の彼が出てくる余地はなくなった。ルンルンは、対象に憑依することで相手の力を奪い取る。その際に対象の意識が失われることは以前にもあった。
やはり、ルンルンが意図的に彼を眠らせようとした可能性は低い。しかし、完全にないとはいえない。何らかの手段で、彼女がルーシの特性を理解していた可能性もある。
「番は俺がしておく」フィルが月夜の傍にやって来て、彼女に言った。「お前ももう寝た方がいい」
「まだ、平気」
「眠たいんじゃなかったか?」
フィルに問われて、月夜はなんとなく自分の額に触れる。意味のないジェスチャーだった。でも、ときどきそういう動きをしたくなる。
「そうかもしれないけど、そうではない」
「下に行って、眠れ」
「じゃあ、そうする」
部屋の外に出て、階段を下りる。
途中で足が滑って、二段分を一度に下りることになった。
「大丈夫か?」頭上からフィルの声。
「大丈夫ではなさそう」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる