舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第26章

第252話 暗い部屋

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 暗い階段を上り、風呂上がりの髪を拭きながら自室へと向かった。そこは自室には違いないが、今は月夜が使っているのではない。ルーシが眠っているはずだ。

 部屋の前にフィルが立っていた。月夜が来るのを予想していたようだ。あるいは、足音に気がついて目を覚ましたのか。そうでなければ、彼が何もしないで立っていることはありえない。

「もう、眠った?」

 月夜が尋ねると、フィルは小さく頷いた。

「外からでは分からないが」

 月夜はドアを開けて部屋に入る。部屋はあまり広くないから、布団を敷けば床の面積の大半が覆われる。その上にルーシが横になっていた。横になって横になっているのではなく、横になって上を向いていた。今は目は閉じている。

 彼が自ら意識を失うのはいつ以来なのだろう、と月夜は考える。おそらく、彼はもう一人の自分の影響を受けて、自ら眠ることをしなかった。しかし、それでも問題はないはずだ。物の怪はもともと死んでいるから、眠らなくても体調を崩すことはない。

 そうか。

 ルンルンは彼を眠らせようとしたのかもしれない、と月夜は思いついた。

 そう言い切れるだけの確証はない。単純に、一度で彼の息の根を止めることができなかっただけかもしれない。しかし、そうでなければ、傷を付けるだけで立ち去ったことの説明ができる。すなわち、ルーシはルンルンに力を奪い取られ、そのために意識を失った。それによって、もう一人の彼が出てくる余地はなくなった。ルンルンは、対象に憑依することで相手の力を奪い取る。その際に対象の意識が失われることは以前にもあった。

 やはり、ルンルンが意図的に彼を眠らせようとした可能性は低い。しかし、完全にないとはいえない。何らかの手段で、彼女がルーシの特性を理解していた可能性もある。

「番は俺がしておく」フィルが月夜の傍にやって来て、彼女に言った。「お前ももう寝た方がいい」

「まだ、平気」

「眠たいんじゃなかったか?」

 フィルに問われて、月夜はなんとなく自分の額に触れる。意味のないジェスチャーだった。でも、ときどきそういう動きをしたくなる。

「そうかもしれないけど、そうではない」

「下に行って、眠れ」

「じゃあ、そうする」

 部屋の外に出て、階段を下りる。

 途中で足が滑って、二段分を一度に下りることになった。

「大丈夫か?」頭上からフィルの声。

「大丈夫ではなさそう」
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